宿のプールで身体と頭を冷やし、予約したレストランへ
屋台は旧市街の中心まで続き、フツっと途切れた。荷物が重いし、午後2時の太陽は強すぎるし、もう宿には歩いては戻れない。こんな炎天下に歩いたら熱中症間違いなしだ。目の前にあった観光客向けのカフェで一涼みしてから、日陰の道を選んで目星をつけていたレストランに出向き、その晩のテーブルの予約をした。そして、宿に電話して、旧市街のランドマークとなっている巨大な風車の前まで車で迎えに来てもらった。

午後は宿のプールに飛び込んで、身体と頭を十分に冷やした後、少し日差しが落ちてきた午後7時に再び宿の車に乗って、予約したレストラン『Fava(ファヴァ)』に向かった。昼間は歩いている人が少なかった旧市街も、夕暮れには国内外の観光客で混み合っていた。
『Fava』はそんな旧市街の細い通りに面していて、一歩足を踏み入れると、表の建物の入り口からは想像出来ないほど広い中庭が広がっていた。2〜3百人規模の結婚式が出来そうだ。まだ午後7時過ぎでトルコ人の夕食タイムには随分早いのに、6月下旬は観光ハイシーズンなので、すでに1/3のテーブルが埋まっていた。
外国人のお客も多いためか、渡されたメニューには文字だけのページだけでなく、前菜「メゼ」を美しくテーブルに並べ、上から俯瞰撮影したカラー写真のページがあった。白い長方形のメゼ皿を5列✗3行に整列させた写真が見開き2ページにドーンと掲載され、一つ一つのお皿の余白に料理名が載っている。
僕はカラー写真入りメニューはあまり好きではないのだが、この店のメニューはプロのカメラマンの手によって美しく俯瞰撮影されていたので納得だ。それに合計30種類のメゼのうち、約2/3はこれまでの長年のメイハネ通いで判別出来たが、残りの1/3の料理は僕も初めて目にするものだった。



野菜のメゼではムハンマラ(焼いた赤パプリカと胡桃のペースト)、ババガヌーシュ(焼き茄子と練胡麻のペースト)、アトム(水切りヨーグルトに赤唐辛子オイルかけ)、ファヴァ(空豆のペースト)、村の焼き茄子サラダ、ジャジュック(水切りヨーグルトとおろしキュウリのペースト)、ズッキーニの花のドルマ(ご飯づめ)アッケシソウやオカヒジキのオリーブオイルマリネなど。
魚介なら、スモークサーモン、スズキのマヨネーズ和え、塩漬けカツオ、カタクチイワシのスモーク、蛸のサラダ、茹で海老のサラダ、蛸のカルパッチョ、茹でムール貝のマヨネーズ和えなどは食べたことがある。
しかし、アタトゥルクのメゼ、将軍のペースト、1850年のメゼ、アラチャトゥの風などは初めて聞く名前だ。スーパーお婆ちゃん(!?)に至っては一体どんな味の料理なのか検討もつかない……。
そこで前菜はファヴァ、ズッキーニの花のドルマ、蛸のサラダ、そしてアラチャトゥの風を頼むことにした。ワインはアラチャトゥとイズミルの間にあるワイナリー「ウルラ」のシャルドネ、さらにグリーンサラダとメインに蛸足の炭火焼きを注文した。
お店の名前にもなっているファヴァとは乾燥空豆を戻してから柔らかく煮たペーストを指す。前年に訪れたギリシャ・サントリーニ島では地元の固有品種の乾燥ガラス豆を使ったペーストだったが、トルコ語でもアラビア語でもファヴァと言えば、あくまで乾燥空豆のペーストである。空豆は独特の臭みがあり、ひよこ豆から作ったホモスよりも旨味が強いのが特徴。上に振りかけられた紫玉ねぎとディルのみじん切りがまったりしたファヴァの味を引き立たせていた。

ズッキーニの花のドルマは、一年のうちにズッキーニの花が旬の短い季節にしか食べられないので、お店で見かけたら必ず注文している。薄い花びらの中にトルコ料理のドルマに用いられるかやくご飯、ディルと乾燥黒スグリと松の実、みじん切りの玉ねぎ、お米が詰められ、オリーブオイルとレモン汁と塩、砂糖を加えたお湯で茹で、最後に冷蔵庫で冷たく冷やしてある。ズッキーニの花びらから出るとろみときな粉のようにホロホロとした花粉が他のドルマとは一線を画している。美味い!
