文と写真/サラーム海上

 

 

家庭料理レストラン『エンギナレ』でエーゲ海料理を習う

 2019年6月20日日曜。この日はアラチャトゥ旧市街にある家庭料理レストラン『Enginarre(エンギナレ)』でエーゲ海料理を習えることになった。

 ここはミライさんとミネさん、地元生まれの姉妹が作るエーゲ海の家庭料理が評判となり、Tripadvisorによるアラチャトゥのレストラン部門で四年連続でナンバーワンに選ばれていた(2020年7月現在は第四位)。

 ミネさんは、僕のイスタンブルの友人アイリンの一番上のお姉さんで、イズミルに暮らしているシェルミンさんの家で家政婦としてアルバイトもしていて、シェルミンさんを通して、二人を紹介してもらった。と言っても、モロッコギリシャで訪れたような本格的な料理教室が待っているのか、それとも二人が料理を作るのを見せてくれるだけなのか、それとも、お店の仕込みを手伝わされるのか、行ってみないことにはわからない。

 外国人観光客に人気のお店にもかかわらず、ミライさんとミネさんは英語が苦手らしく、チャットは全てトルコ語で届いた。僕はその場で翻訳アプリを使って翻訳し、やはり翻訳アプリを使ってトルコ語で返信した。すると前日の夕方になって、翌日の朝10時過ぎにお店に来てくれとメッセージが届いた。

 エンギナレは僕が滞在していた宿の丘を下って、石畳の旧市街に入ってすぐの裏通りにあった。小さなモスクの目の前の道の角で、野外のテラスに白い木製のテーブルが12脚並び、上には真っ白な日よけの巨大タープが張られていた。雨が降ることなど全く考えていない造りだ。

 その奥に小さな一階建ての白い建物があり、入り口をくぐると正面に15畳くらいのスペースがあり、三方の壁が台所の作業台やレンジ台となっていて、手前にテーブルや収納庫を兼ねた作業台が設置されていた。理想的なアイランドキッチンだ。そこでオレンジ色のTシャツに白い前掛けをつけたミライさんが巨大なプラスティックのボウルにパン生地をこねながら、にこやかに迎えてくれた。

 

日曜の午前中のアラチャトゥ旧市街外れ
角にエンギナレのサイン発見。エンギナレはアーティチョークという意味。ほかにもケキッキ(タイム)ホテル、裏庭など、農産物にちなんだ名前のお店が目立つ

 「ギュナイドゥン(おはようございます)。アイリンの友達の日本人です。料理を習いに来ました!」

 「ホシュゲルディニズ(ようこそ)。ちょうどパンを作っています。小麦粉と塩と酵母だけです。酵母は私の父が60年前に作ったものを元に今日まで受け継いでいます」

 おお、朝一発目から60年前の酵母なんて興味深い! パン生地はかなりベチョベチョな状態で、お玉一杯分ほどをタッパウェアに取り分け、冷蔵庫に保存してから、残りをステンレスのボウルに移し、オーブンで発酵させていた。こうやって60年間も受け継がれてきた酵母で作るパンはさぞかしエーゲ海のエッセンスが詰まっているはず。

 

ちょうどパン生地をこねていたミライさん

発酵したパン生地の一部を次回の生地のために残しておく。こうして酵母が60年間も受け継がれてきた