ローマの街の中心を緩やかに蛇行するテヴェレ川沿いの道「ルンゴテヴェレ」。地元ローマ人はもちろんのこと、世界各国から集う観光客が朝な夕なに行き来するこの道は、私のお気に入りの散歩コースである。
テヴェレ川を挟んで、中心街のある東側と中世時代から庶民の生活エリアがあった西側に二分されるローマ。私がローマで暮らし始めた時、最初の下宿先があったのがこの西側の下町・トラステヴェレと呼ばれる地区だった。元気なお年寄りや気さくな若者が集うこのエリアは、私にとっての「ローマ」を体現している。時々一人でふらっと舞い戻りたくなる第二の故郷のような場所なのだ。
今日はこのテヴェレ川沿いを歩きながら、ローマの下町散策に出かけてみよう。

 



サンタンジェロ橋は、バロックの巨匠ベルニーニの工房が制作した彫像で飾られている。

 

 ローマを縦断するルンゴテヴェレは慢性的な駐車場不足と交通渋滞で有名で、「30分待ってもバスが来ない!」なんて日常茶飯事。でこぼこ道で歩きづらく、朝から晩まで車のクラクションで騒々しいのだが、それでもこの道は歩くに限る。渋滞中の道路を脇目に、犬の糞を踏まないよう足元に注意しつつ、テヴェレ川にかかる多彩な建築様式の橋と川沿の並木道のコントラストの美しさを愛でながら川下へ向かって歩く。

 



交通の騒音と川の流れの間を歩く。狭い通りでは知恵と工夫を凝らして駐車スペースを「自分で作る」のがローマ流。

ローマっ子のハート・トラステヴェレ地区

 サンタンジェロ橋から数えて4つ目にあるポンテ・シスト(シスト橋)は、テヴェレ川にかかる28の橋の中でもローマっ子に最も愛されている橋で、私も一番愛着がある。ローマ市内のどこからでも眺められるサン・ピエトロ寺院のクーポラも、ここから眺める姿が一番美しいと私は思っている。夏の終わりの夕暮れ時、赤紫に染まった空と川面に映る木々の影の間にライトアップされてぽっこりと浮かび上がる荘厳なクーポラ。数え切れないほど目にした風景なのだが、それでも毎回、ハッと息を飲んで立ち尽くしてしまうほどインパクトがある。

 

15世紀の完成当時の面影を今に残している貴重な歴史遺産でもあるシスト橋。

橋の上はストリート・アーティストから露天商、ツーリスト、地区の住民などで昼も夜もにぎわっている。

 

 シスト橋から川沿の道を外れ、トゥリルッサ広場を通って迷宮の下町トラステヴェレ地区へ入り込む。初めてローマを訪れた時、迷路のように入り組んだ細い石畳の道と中世時代にタイムトリップしたような雰囲気の赤茶色の建物の群れに一目で心を奪われた。細い路地を挟んで向かい合うアパートの窓と窓の間に干された洗濯物が風にはためき、窓から上半身を乗り出して大声でおしゃべりに興じるおばあちゃんの声が細い路地に響き渡る。なんだか妙にホッとする空間がここにはあるのだ。

 

トラステヴェレ地区にはバールやトラットリア、ピッツェリア、エノテカなど庶民的で美味しい店が目白押し。