毎年12月に入るとローマの街はいつも以上のカオス状態に陥る。道路は常に大渋滞でクラクションが朝から晩まで鳴り響き、スーパーやショッピングセンターはヒステリックな人々が溢れかえる。なぜこうなるのかは、イタリア人の友達にも「わからない」そうだ。
ローマのクリスマスは日本や他国と比べると、いたって質素である。教会の中には厳かな雰囲気があるが、街中はイルミネーションも地味なうえ、どこもかしこも喧騒だらけ。つまり「ロマンティック」とはほど遠いクリスマスなのだ。そんな折、インターネットで見た一枚の写真に心を奪われた。オーストリアとの国境近く、山奥の小さな街で開かれる「クリスマス・マーケット」。キラキラ輝く色とりどりのオーナメント、天然の大きなもみの木のツリー、そして街を取り囲む雪山の景色。これは行かなくては! 早速、喧騒のローマを脱出し、ロマンティックなクリスマスを求めてその小さな街・メラーノへと向かった。

 

アディジェ川支流のパッシリオ川沿に広がるメラーノの街は、皇妃エリザベートお気に入りの保養地として栄えた。

 

 ローマからユーロスターで4時間半、まずはボルツァーノへ。そこからローカル線でメラーノまで40分。1918年までオーストリア領だったこのエリアは、イタリアというよりドイツの地方都市のようだ。電車も定刻通りに発着するし、車内も清掃が行き届いていて気持ちがいい。イタリアのカオスに慣れてしまった身には、たったこれだけのことで海外旅行をしているような気分になれる。

 

欧州各国から観光客が押し寄せるクリスマス市

 B&Bに荷物を置くや否や、旧市街へと繰り出した。街にはドイツ風のとんがり屋根の建物が並び、お店のショーウィンドウも通りもキラキラと華やかなクリスマスの装飾がいっぱい。期待は否応なしに高まっていく。プレッツェルをかじりながら、クリスマス市が開かれているパッシリオ川沿いの遊歩道を目指す。リバティ様式の美しいクアハウスの脇道を抜けると遊歩道に出るはずだが…。
 なんだこの人だかりは!? 川沿いの遊歩道はまるで初詣の浅草寺の参道のように黒山の人だかりができていた。喧騒と人混みを避けたくてここまで来たのに、やはりクリスマスはどこでも同じなのか。いやいや、おそらく夕食前の散歩に出て来た人たちなのだろう。小さな子ども連れの家族も多いし、日が暮れれば混雑も少しは解消されるかも。そう思い直してバールで日暮れを待つことにした。
 カフェを飲みつつバールの主人から聞いた話によると、ここメラーノのクリスマス市は欧州でもかなり有名らしく、11月末から1月初旬の開催期間は、イタリア国内のみならず欧州各国からもツーリストが押し寄せてくるのだそうだ。
「メラーノはイタリアやスペインはもちろん、クリスマス市の本場があるドイツやスイスからもツーリストが来てるよ。小さな街だけど素晴らしいテルメもあるし、週末にちょっとくつろいでクリスマス気分を味わいたい人には最高の街なのさ」
バールの主人はそう言って胸を張った。

 

ドイツ風のベーカリーやビアホールも多く、本場の味が楽しめる。クリスマス・マーケットは毎年11月末から翌年の1月初旬にかけて開催されている。

 

マーケット歩きは夕飯時が狙い目

 夕食時間の午後8時を過ぎると、予想どおり少しだけ混雑がおさまって来た。子どもやお年寄りのいる家族は 皆レストランへ行っている時間帯なので、道も比較的歩きやすい。マーケットを見て歩くなら今がチャンス! 
 遊歩道の両脇にはぎっしりと屋台が並んでいる。ツリー用のオーナメントを売る店、暖かそうな手編みの靴下や帽子の店、プレゼントにぴったりなアクセサリーやキャンドルのお店もある。ツーリストインフォメーションでもらったマップには出店している屋台がカテゴリー別に記されているので、それを見ながらマーケットを練り歩く。通りには地元の伝統工芸職人さん達が毎年作る大きな木彫りの彫刻が展示され、昼間の時間帯には即興制作のイベントも行われるらしい。旧市街のお店はもちろん、タウンホールやレストラン、カフェテリアもクリスマスムード一色で、小さな街が一丸となってこのイベントを盛り上げようとしている様子がうかがえる。

 

手作りの木製のオーナメントからガラス細工のオーナメントまで、クリスマスの飾り付けに必要なアイテムがずらっと並んでいる。