ナターレ(=クリスマス)がすぐそこまで近づいて来た。街中も教会も家々も、イルミネーションやツリー、そしてプレゼーぺで飾り付けられ、25日を迎える準備はすっかり整ったようだ。
プレゼーぺ発祥の地グレッチョのサントゥアリオ(聖地)と博物館を訪れ、改めて「ナターレ」という言葉の意義を知った。すっかり厳粛な気分になったところで、「グレッチョ村の人々はどんな風にこの時期を過ごすのだろう?」と興味が湧いて来た。聖フランチェスコのサントゥアリオを後にして村の広場へ戻り、この山間の小さな村の中を散策してみることにした。
壁画で彩られた山間の集落
グレッチョの集落はラツィオ州とウンブリア州の境にあるアペニン山中に位置している。中世の面影を残す小さな村は別名「ナターレの村(Il Borgo del Natale)」と呼ばれ、12月に入るや否やイタリア国内、海外からも多くの巡礼者が押し寄せてくることで知られている。とはいえ、プレゼーぺ博物館やサントゥアリオ、その他周辺に点在する修道院なども、いわゆる「観光スポット」とは少し趣が異なる。ここを訪れる人達の目的は巡礼であるため、静かで慎ましいこの村はまるで聖フランチェスコの清貧の教えを体現したかのような雰囲気に包まれている。
12月初旬の平日、人気の少ない村の中をあてもなく歩いていると、通りの角や住宅の壁面に描かれたフレスコ画の数々が目に留まった。どの壁画も聖フランチェスコと自然や動物がモチーフとなっていて、この村とアッシジの聖人との結びつきの深さがよくわかる。15分ほど歩いたところで、出発点の広場へ戻って来た。広場にあった案内板をもう一度見てみると、『チッタ・デッレ・アルテ・サクロ(聖なるアートの村)』という看板があり、村全体をオープン・ミュージアムに仕立ててアーティスト達が聖フランチェスコをテーマにした壁画を製作したことがわかった。住民の家の壁やバールの壁など、あちこちで見られる壁画の数々によって、この村に流れるどこか神聖な空気がますます濃くなっているように感じた。



郷土の味はマンマの手料理
壁画巡りを終える頃、太陽が山の向こうへ回って空気がぐっと冷え込んで来た。時計を見ると午後1時半、昼ごはんの時間だ。博物館のティツィアーナさんに聞いた話では、グレッチョの郷土料理はウサギやイノシシといったジビエ肉と手打ちのパスタなど、素朴な家庭料理のようなメニューが多いらしい。トラットリアやレストランは数こそ少ないものの、どの店に入っても手頃な値段で美味しい料理が食べられるとのことだったので、最初に目についた店に入ってみることにした。
村の中心のローマ広場にある『リストランテ・デル・パッセジェーロ』は、一見普通のバールのような雰囲気だったが、店内に入ると常連らしき地元の人々でにぎわっていた。平日の昼、地元住民が食べに来ているということは、それだけ安くて美味しいということに違いない。
テーブルにつくと早速、店のおかみさんが今日のおすすめメニューを読み上げてくれた。「グレッチョの代表的な料理が食べたいのですが」というと、「それじゃ、カンネッローニね。セコンドにはウサギ肉のローストがあるわよ」と勧められたので両方いただくことにした。
おかみさんとそのマンマらしき高齢のおばあちゃんが切り盛りしている店は、サービスもゆったりしている。カンネッローニを待つ間、お腹を空かせて隣の席に運ばれてくる美味しそうなパスタを眺めていると、
「はい、フォカッチャ。ソーセージ入りよ!」とおかみさんがサービスのフォカッチャを持って来てくれた。焼き立てサクサクのフォカッチャは、香ばしいローズマリーとソーセージの塩味が絶妙で、あっという間に平らげてしまった。
ようやく運ばれて来たカンネッローニも、思わず笑みがこぼれる美味しさ。マンマの手打ちパスタはコシがあって、噛むほどに味が深まる。自家製のトマトソースとチーズ、ひき肉とこのパスタの調和が見事で思わず唸った。熱々のカンネッローニお陰で冷えた体も一気に温まった。


