2018年も残りわずかとなったある日の午後。「ああ、もうじきナターレ前の大混乱が始まっちゃうね…」とため息をつきながら、イタリア人の親友とバールでカフェを飲んでいた。お互いに今年あったあれこれを語り合ううち、「私たち、よく頑張ったと思わない?」という言葉がどちらからともなく漏れた。だんだん言うことを聞かなくなってきた頭と体に鞭を入れつつ、来る日も来る日も仕事、買い物、料理、掃除、洗濯、家族の世話に追われまくった一年だった。
「そう、私たちはとっても頑張った。だから、ご褒美が必要なのよ!」おしゃべりがクライマックスを迎えた時、私が放った一言に親友は手をたたいて同意。疲れ切っているオトナ女子二人、「心と体を優しく癒してくれるテルメ(温泉)で束の間の休息を楽しもう!」と言うことで話は即座に決まり、一泊二日のささやかなご褒美旅に出ることになった。

 

マレンマの穏やかな自然美に癒されるドライブ

 私が目的地に選んだのは、かねてから一度行ってみたいと願っていたイタリアの温泉地サトゥルニア。トスカーナ南部、ラツィオとの州境にあるマレンマ地区は透明なティレニア海と内陸に広がるのどかな農作地帯が牧歌的なエリアで、天然温泉サトゥルニアはその風光明媚な大自然の中にある。ローマから車で2時間ちょっとで行ける距離なのだが、公共の交通機関が発達していないため、車なしではアクセスできないのがネックとなって今まで近づくことができなかったのだ。
   隣で鼻歌を歌いながら愛車を運転する親友は、フロントガラスに打ち付ける雨など気にも止めず、「ホテルに着いたら早速テルメに入りましょう! 雨だって構わないわ、どうせ濡れるんだし。ああ、早くあったかい温泉に浸かってぼーっとしたい!」と呪文のように唱え続けている。
   欧州自動車道E80号線を降りてからは大きな道路がなく、なだらかな丘陵地帯に広がる畑の間のガタガタ道をスカイブルーのオペルで走り抜けて行く。カーブの続く山道では見事な紅葉のトンネルが私たちを歓迎してくれた。ホテルに近づくにつれ徐々にお天気は回復し、収穫を終えた葡萄畑の向こうに落ちていく真っ赤な夕陽を眺めることができた。穏やかな優しさに満ちたマレンマの自然風景を車窓から楽しみながら、日暮れ前にホテルに到着した。

 

トスカーナとラツィオの州境にある5000㎢のエリアはマレンマ地区と呼ばれ、ティレニア海を見下ろすなだらかな丘陵地にある。グロッセートを中心に広がるこの地区には広大な「マレンマ自然公園」もあり、穏やかで美しい自然が残るエリアとして知られている。