文・写真/室橋裕和

 

 JR五日市線の終点、武蔵五日市駅を出ると、そこには東京とは思えない景色が広がっていた。紅葉の山が鮮やかだ。空は高く、澄み渡っている。すぐそばの秋川渓谷に行くのか、山歩きやサイクリングの人々も見かける。

 駅から秋川街道を5分も歩くと、もう山里の風情だ。なだらかな坂道を登って、紅葉の合間をたどる。やがて、あきる野市から日の出町に入ると、左手に風情ある山小屋風の郵便局が見えてくる。その、道路を挟んだ反対側だ。タイと日本の国旗が並ぶ。ここはワット・インブンタンマーラーム、タイのお寺だ。

武蔵五日市駅からは紅葉の山がよく見える。近くの温泉に向かうトレーラーバスも発着している
秋川街道沿いに現れるワット・インブンタンマーラーム

■いきなりタイ飯がずらりと

 中に入ると、広々としたリビングでタイ人と日本人がくつろいでいた。左手の一段高くなった棚のようないわば上座に、オレンジ色の僧服をまとったふたりのタイ僧。

「昔タイに住んでいたことがあって、タイが懐かしくなっちゃって遊びに来たんです」

 僕がそう話すと、誰もが笑顔で出迎えてくれるのだ。

「どこに住んでたの?」「どんな仕事だった?」「タイ語わかる?」

 タイ語と日本語で次々に話しかけられる。

「きんかーお・る・やん(ごはん食べた?)」

 タイではお決まりの挨拶とともに、ずらりとタイ料理が並ぶ。

「昼ごはんもう終わっちゃって、あまりものでごめんね」

 なんて言うけれど、ひき肉と砂肝、野菜のガパオ炒め、パッカドーン(タイ風の高菜漬け)と卵の炒め物など、家庭料理の数々が嬉しい。辛さも控えめで優しい味わいの料理をいただきながら、あれこれとお話を伺った。

「このお寺ができたのは4年ほど前なんですよ」

 そう教えてくれたのは、タイに駐在していたことがある日本人の方。現地で出会って結婚したタイ人のご夫人とともに、このお寺によく来ているそうだ。

 もともと青梅にあったお寺が手狭になったために移転先を探していたところ、手ごろな物件が見つかった。割烹料理屋と、法事などに使う宴会場だった建物だ。それを買い取り、寺院に転用しているそうだ。

そこらのタイレストランよりずっとおいしい、おばちゃんたちの手づくりタイ料理