羽田空港から検疫所登録待機施設のホテルへ直行し、6日間(到着日を含めると1週間)の強制隔離生活が始まった。普通の生活をして真面目に生きていれば、まず体験できない環境である。事前にできる限りの情報を集めてはいたものの、その実態は経験してみなければわからないことばかりだった。前回に引き続き、宿泊隔離生活の具体的な過ごし方をご紹介していこう。

 

 羽田空港に到着した直後から外部との接触を一切絶って、待機場所のホテルの一室で過ごす日々が始まった。到着日は隔離期間にカウントされないので、実際に隔離生活が始まったのは翌19日からである。現在、イタリアからの入国者には6日間の隔離義務があるので、晴れてこの部屋を出て自宅へ帰れるのは24日ということになる。
 隔離期間中の生活には、次のようなルールがある。毎朝体温を計り、ホテルが用意したサイトにアクセスして健康状態の報告をすること、入国時にダウンロードしたMySOSアプリでも同様に健康状態の報告をすること。1日に2回、現在地報告と居場所確認のビデオコールのお知らせが入るので、メッセージが来たらすぐに応答すること。3度の食事は毎回ドアノブに下げられていくので、配達が完了した段階で流れるアナウンスを待ってから、マスクを着用してドアを開けて受け取ること。ゴミは弁当を受け取る時に所定の袋に入れて廊下に出しておくこと。廊下に出ることは禁止されているので、お弁当の受け取りとゴミ出しはドアを開けた一瞬のタイミングで行うこと。つまり弁当を受け取る一瞬だけが、外界に接触できる貴重な機会となる。
 さらに、6日間の隔離者は、3日目と最終日の6日目の朝食前に唾液検査がある。この2回の検査結果が陰性であれば、ホテルを退所して自宅隔離へと移行することができるが、万が一陽性になれば、このまま2週間が過ぎるまでホテルの部屋で待機することになる。

 

宿泊隔離ではこの空間が「世界の全て」となる。アプリでのチェックがあるためWiFi環境は充実しているが、スマホやパソコンを使いこなせない高齢者などは一体どうするのだろう?と心配になった。

 

 窮屈ではあるものの、限られた空間と手持ちのアイテムを駆使して少しずつ、自分なりに居心地の良い居場所を作り上げていった。なにしろ頭をひねる時間だけはたっぷりある。
 かなり特殊な環境で過ごす非日常生活の中で、一番重要だったのは食事である。隔離者には食事を選ぶ権利はないに等しく、1日3回ドアノブにかけられているお弁当の中身も「運次第」。前回、どの施設に隔離されるかは「ホテルガチャ」によって決まると書いたが、隔離生活2日目に、施設と同じか、人によってはそれ以上に深刻なのが「食事問題」であることが発覚した。
 

 実は今回、二人の子どもを連れて同じフライトで帰国した友人がいるのだが、彼女らは都内の別のホテルへ運ばれた。私のホテルはシングル部屋が多く、一方、子ども連れの彼女は少しでも広い部屋を希望した結果、都内のホテルでかなり広い部屋に入ることができた。入室した時は、「運が良かった」と喜んでいた彼女だが、2日目になって「食事が厳しい」と頭を悩ませ始めた。自分の弁当しか知らない私は、他所の施設でも同じような状況だろうと思っていたので、「朝ごはんから山盛りの冷たい白ご飯と揚げ物が出てくる」という彼女の話を聞いて驚いた。私の朝ごはんはパンと目玉焼き、ハム、サラダ、ヨーグルトといったシンプルなもので、朝食ならこれが定番というメニュー。弁当は、昼は中華やエスニック料理、夜は3種類の味ご飯と肉や魚、野菜、果物やデザートまでついてくる。味もかなり美味しく、毎回キレイに平らげて満足していた。ところが日を追うに連れ、この弁当がいかに贅沢か、私の食生活がいかに恵まれているのかがわかってきた。
 子ども連れの友人は、「とにかく白ご飯の量がすごい。朝から晩まで山盛りのご飯とおかずはこってりした揚げ物。野菜や果物が出てきた試しがない」という。1回ぐらいなら我慢できると思うが、一日3食、しかも早朝からそのメニューはさすがに辛い。百歩譲って「大人の胃袋」と考えれば、なんとか凌ぐこともできるかもしれない。しかし、育ち盛りでバランスの取れた食事が必要な小学生の二人の子ども達はそうはいかない。2日目に危機感を抱いた友人の悪い予感は的中し、3日目からは子ども達が食べるものがない、という苦境に陥ってしまった。幸いなことにデリバリーや差し入れはOKなので、心優しい友人がせっせと野菜や果物を差し入れしたお陰で、なんとか彼女らも6日間の隔離生活を生き抜くことができた。

 

6日間食べていた私の弁当の一例。栄養バランスをしっかり考え、味付けや食感もバラエティ豊かで食事の時間が待ち遠しかった。隔離生活では、食事タイムが唯一の一大イベントとなることを知った。
食事で苦労した友人一家のある日の朝食。6日間毎食このメニューでは、子どもにはさすがに厳しい。デリバリーや差し入れは許可されているので「嫌なら自分で頼めばいい」のかもしれないが、ではこの弁当は「廃棄」すればいいのか? それはそれで由々しき問題である。