文・写真/室橋裕和

 

 書いている本人もすっかり忘れていたのだが、この連載のテーマは「国境」なんである。それがコロナ禍のため国をまたいで旅することが難しくなり、やむなく日本国内で異国を感じられるスポットを訪ね歩いているわけなんだが、やっぱりしっかり旅がしたい。そろそろ2年、国境を越えていないのだ。

 そこで、デルタ株の猛威もひと段落した2021年末、僕は「日本の国境」を巡ってみることにした。目指すは北海道の東の果てだ。根室海峡を越えたその先は北方領土、ロシアなんである。

 もちろん我が国としては、北方領土は固有の領土であり、根室海峡に「国境線」なんぞ引かれていないという認識だ。両国の「中間ライン」という言い方をする。とはいえ、そのラインの向こうはロシア政府に実効支配され、ロシア人が住み、ロシアの文化が息づく。事実上の国境となってしまっているのは確かなのだ。そんな北方領土が間近に見えるという道東を旅するため、僕はまず釧路に降り立った。

釧路南部の米町公園から港と市街地を見渡す

■マイナス13度の寒さ

 空港ターミナルを出ると、まず肌が切れるような冷気に驚いた。東京とは質の違う寒さだが、空気は澄み、なんだか清らかだ。

 市内までの連絡バスから見える光景も、本州とはずいぶんと違う。雪に覆われた大平原と、その果てにそびえる冠雪した山々。スケールが大きい。凍結した川をいくつも渡る。釧路の市街地に入ると、どの家の軒先にも雪かき用のシャベルや除雪機が立てかけられていた。道東は北海道の中では比較的、積雪が少ないと聞くが、それでもやっぱり雪国なのだ。防寒のためだろう、玄関の扉を二重にしている家も多い。

「今朝はマイナス13度まで行ってね。今年初めてじゃないかな、釧路川で〝けあらし〟がよく見えたよ」

 民宿のおばちゃんが言う。キンキンに冷やされた大気と、それよりは温かい海面・川面との温度差による現象だ。水面から蒸発した水蒸気が急激に冷やされて霧となり、漂う。釧路川から湯気が立ち上っているかのような幻想的な景色なのだそうだ。

 そんな釧路は歩道のほとんどに根雪が張って凍結し、慣れない都民としては怖い。慎重に歩かないと確実にコケるだろう。なるべく小股でバランスを取りつつ、よちよちと歩を進めるのだが、平然とジョギングしていく地元民に追い抜かされる。そんな体験もなんだか新鮮だった。

炊き込みご飯に、醤油に漬け込んだサンマを乗せた釧路名物「さんまんま」、旨い!