文/ステファン・ダントン 写真/冨田 望

 

特別な事情がない限り、私は仕事を休まない。「おちゃらか」に定休日はない。仕事が大好きだ。母がリヨンで営んでいた花屋。働き詰めの毎日をほがらかに過ごす母を見て育ってきたせいかもしれない。

それでも、地元・横須賀の友だちとの約束は優先する。仲間と海で過ごすことが最高のリフレッシュになるから。仕事のパフォーマンス向上にもつながるはず。言い訳かな(笑)

 

■仲間が集まる海の家

浦賀の工房から少し車を走らせると、知る人ぞ知る高品質な海苔の名産地・走水に到着する。目の前の砂浜にはかつて海の家が4軒ほどあり、夏の海を満喫した。子どもたちに泳ぎを教えたのもここだ。残念ながら最近、行政の意向で海の家を営むことはできなくなったが、そこでできた仲間はずっとここにいる。

今回、海苔などの製造・販売を手掛ける「もといや」を訪ねてみた。「もといや」の7代目と私の妻は大学の先輩・後輩という関係で、妻は学生時代にもといやが営む海の家でアルバイトをするなど長い付き合いをしてきた。横須賀に移り住んだ私がたくさんの仲間を作れたのも、「もといや」のおかげが大きい。夏になると友だちやその家族が集まって、日が暮れるまでバーベキューを楽しんだものだ。

「もといや」に辿り着くと、偶然にも漁を終えた8代目とばったり。

「お久しぶりです。ステファンさん」
と駆け寄る彼の後ろからは、その妹も現れた。2人とも私の息子・娘と同世代。小さなころが懐かしい。

ふと、「おちゃらか」の定番商品『昆布茶』のメイン材料・昆布が残りわずかになっていることに気づき、昆布を6袋購入。ここの昆布は『早煮昆布』といい、一般的な昆布よりも粘りが強く、短時間でも出汁が出るという特徴がある。この昆布を細かく刻んで茶葉と混ぜ、あられを加えた昆布茶は、「おちゃらか」の商品の中でも根強い人気を誇る。

「もといや」の海苔も香りや旨味の強さで有名だ。ガスコンロやトースターであぶれば海の恵を存分に堪能できる。この海苔を使った『のりだんだん』という弁当も地元のソウルフードになっている。通常ののり弁はご飯の上に海苔を1枚乗せるだけだが、のりだんだんは醤油味を染み込ませたご飯に海苔を乗せ、それをさらに2層に重ねたもの。横須賀というと米軍の印象が強く、外国の食文化の影響が強そうなイメージがあるかもしれないが、地元の特産品を使った魅力的な料理もたくさんある。

「もといや」にて7代目と8代目に遭遇。自分の腰より低い背丈だった青年が、今は後継ぎとして奮闘している


「おちゃらか」の昆布茶に使用する『早煮昆布』を仕入れる。海苔も名産

■手作りの感覚が価値を生む

「もといや」から砂浜沿いに数十メートル行くと、地元で取れた食材で料理を提供する「かねよ食堂」に到着する。「もといや」の前の砂浜でバーベキューをして海で遊び、「かねよ食堂」でディナー。夏の遊びのフルコースだ。

店主が古材や錆びたトタンを使って手作りした店舗に詳細な図面はなく、今も改装を続けている。この日も木材をカットして何かを組み立ていた。テラスを増設する途中だったのかもしれない。満潮時は波がそこまでくる場所なので、台風にやられれば損壊する可能性もあるのにおかまいなし。また作ればよいだけ。時間を楽しみながら自分の感覚で店を作り上げていく店主の感覚は私と通じあう。

店主は漁師で、朝早くから漁に出て、獲れた魚を料理に使う。早朝に仕込んだお茶を、日中に店で売る私のスタイルと共通するところもある。三崎のマグロ、メジナ、クロダイ、タコのそれぞれにオリジナルのソースを添えた盛り合わせは絶品。ワインも豊富。

おいしい料理と刻々と変化する海の景観、そして気心の知れた仲間との会話で至福の時を過ごす。「やはりこの土地、横須賀からは離れられない。離れたくない」という気持ちが強くなる。

「かねよ食堂」の店先にて店主と談笑。海水浴、バーベキューのあとはここで夜までくつろぐのが昔からの過ごし方

店主が漁師とあって料理は海の幸がメイン。創作料理、ワインも豊富



「かねよ食堂」の内観(上)と外観(下)。お店は店主の手作り。浜辺のテラス席も心地よい

横須賀の仲間たちは時間も苦労も楽しみながら自分の城を自分の手で作り、自分たちのまちを作っている。尊敬している。フランスでは行政の枠組みの中で個人が自由にやりたいことをやるのが普通だ。日本はどうだろう。少なくとも私のまち・横須賀にはその可能性があると思う。