文/チョン・ウンスク

 

 どこの国であろうが、旅先でかならず行くところがある。在来市場だ。

 済州には大小の常設市場があるが、その代表が南側の済州市の東門在来市場、そして北側にある西帰浦市の毎日オルレ市場だ。今回はこのふたつの市場を歩いてみよう。

■東門在来市場、目当ては夜市

「行動制限が解除され、海外に行けない人が済州島へ押し寄せたんです。コロナ感染者が増えて大変ですよ」

 夜、空港で拾ったタクシーの女性運転手さんは、お客が増えるのはうれしいと言いながらも、感染拡大を心配していた。私もそのひとりなので耳が痛かった。彼女は東門市場はちょっと離れていたところでクルマを止めた。人の多い市場には近づきたくなかったようだ。

東門在来市場、3番ゲート

 大通りに面した3番ゲートから市場に入る。通路の両側にはさまざまな商品がライトアップされている。ミカンチョコレート、ミカンジュース、ミカンマッコリ、オメギ(粟)、餅、ピーナッツマッコリなど、済州の名産品ミカンを使ったものが多い。

3番ゲートを入ると、済州名物のミカンやミカンジュースが迎えてくれる

 1999年に済州で撮影された映画『恋風恋歌』(1999年)に、若きチャン・ドンゴンとコ・ソヨンがミカン畑を歩くシーンがあったのを思い出した。この美男美女はなんと2010年に結婚している。劇中のカップルが実生活で結婚に至ったのは珍しいことだろう。あっ、『ジェイル・ブレーカー』(2002年)のソル・ギョングとソン・ユナの例があったか。いずれにせよ、うらやましい話である。

 時刻は9時を回っているのに、人がいっこうに引かないのは、噂の夜市のためらしい。

 東門市場に夜市ができたのは2018年だからわりと最近だ。夜市ができたという言い方はちょっとおかしいかもしれない。もともとあった市場の一画を夜市としてリニューアルしたというほうが正しい。韓国の市場はたいてい朝から晩までやっているのに、夜の部だけを夜市として観光商品化したのはなぜなのか?

 それはおそらく台湾夜市の影響だろう。我が国では2014年頃から台湾旅行がブームになり、コロナ前までは年間120万人以上が台湾を旅行するようになった。韓国人自身はソウルの南大門や東大門、釜山の国際市場以外の中規模市場に観光客を呼ぶ魅力かあると思っていなかった節があるのだが、台湾の夜市が若者を中心した外国人観光客の人気を得ていることで、ようやく気付いたということかもしれない。済州に限らず、釜山の富平カントン市場や光州の大仁市場も夜市場での観光客動員に成功している。

 東門市場の夜市は8番ゲートから始まる。通路の両側には車輪が6個付いた屋台、いやフードトラックが30台以上並んでいる。トラックのデザインは台湾夜市のそれの影響を受けているようだが、看板のデザインはやや韓国のほうが垢抜けして見える。

 扱っている食べ物はオーソドックスなオデンやトッポッキなどではなく、済州の産物にさまざまなアレンジを加えたフュージョン料理が多い。ミカンエビフライ、キムチ巻き黒豚サムギョプサル、牛島ピーナッツチョコスナック、オメギスープ、レッドロブスターのチーズ焼き、豚肉とアワビの焼きそば、アワビ海苔巻き、中国風エビトーストなど。ソウルや釜山などの都会にはニューレトロと呼ばれる懐古趣味の風が吹いているが、ここではおばあさんが一人で切り盛りする昔ながらの屋台料理を恋しがる感性はマイナーらしい。ちょっと疎外感がわいてくる。

 ヒップホップの音楽に合わせて踊るように調理する男の子。歌うような客寄せの声。雰囲気を盛り上げるカクテル光線。最近の韓国人は行列も厭わないどころか、それを楽しんでいるようだ。旅先で気分が開放されているとはいえ、さすがに店先で食べている人は少ない。テイクアウトして宿で楽しむ人が多いようだ。

ファイヤーショーのようなパフォーマンスで目を引くロブスター焼きの店

多彩なフュージョン料理の店が妍を競う