今から50年も前のことで恐縮ですが、初めて京都へ出かけたとき、日本の古都なのに、東京っ子にとっては、なんともよそよそしい町だなと感じました。その後、何度出かけても印象は変わりませんでした。

 ところが、その京都に親しい友人ができると、途端に町が身近に感じられてきました。人で街の印象ががらっと変わってしまう、不思議なことですね。

 福岡も同じでした。仕事で出かけたせいもあると思いますが、福岡といえば「長浜ラーメン」に「ふぐ」に「もつ鍋」。観光も「太宰府天満宮」。東京から出かけた旅人は、いつも「外様」扱いで、いつまでたっても馴染めませんでした。

 いまから、10年ほど前、パティシエ仲間を通じて知り合った福岡のパティスリー「アルデュール」の主人小代パティシエと仲良しになってから、福岡が途端に親しみやすい町になりました。

 福岡へ出かける仕事ができたとき、真っ先に小代さんに連絡を取りました。「晩ごはんでお薦めの店を教えていただけませんか?」と。すると、返ってきた「お薦めの店」が、なんと「懐石料理」の店でした。「福岡で懐石?」真っ当な日本料理なら関西でいただけますし、福岡ならではの店を案内してもらいたかったのですが、「私がご一緒します」と言って、譲りません。私は、正直言って、全く期待しないまま、小代さんに従うことにしました。

 仕事は、当時連載していた「週刊現代」のグラビアページの取材でした。目指すは珈琲店「美美(びみ)」のモカ・ゴールデンハラールです。 その昼間の取材を無事に終え、小代さんと待ち合わせて、博多の「ゑびす堂」へ向かいました。

 玄関を入ると、お香の匂いが立ち込めていて、凛とした空気が漂っていました。これは、気持ちを入れ替えて料理をいただかないといけない、そんな感じでした。

 カウンターに案内され、席に着くと、次々と端正な盛り付けと滋味あふれる味わいの皿が出てきました。頭の中では、いつか「週刊現代」の私の連載にご登場いただきたいと、願い始めていました。

 料理の終盤、小代さんに小声で伺いました。「ゑびす堂さんは、取材を受けてくださいますでしょうかね?」「いや、今まで一度も、テレビや雑誌に出たことがないと思います」やはり、そうなのか!と思いながら、諦めきれません。帰り際、小代さんにごり押しして、ご主人にお伺いを立てていただきました。

 すると「ゑびす堂」主人がいともあっさりと「はい、ありがとうございます。お受けいたします」と快諾してくれるじゃないですか。小代さんが不思議と思って、再度問いただすと「出ないわけではないんです。取材を受けるなら、最初は、山本さんの取材と心に決めていましたから、今日は、とても嬉しいです!」と大きな声で、笑いながら答えてくださいました。

 私にとっても、これほど嬉しいことはありません。以来、福岡へ出かければ「ゑびす堂」となりました。

 今回は、冬なので「ふぐ」尽くしです。ふぐの全ての部位が、ことごとく美味しく調理されて出てきました。

 

しめさば
車海老とたいらぎ貝

 

ふぐ刺し