仕事で、プライベートで、イタリアの東西南北各地を訪れて来た。日帰りや週末の小旅行、長期滞在のバカンスなど、目的や予算に応じて選んだ村や街、海や山などの大自然はどこも個性的で美味しい郷土の味覚もあり、イタリアの国内旅行は満足感がとても高い。ところが、住んでみたいと思う場所は意外と少ないことに気づいた。バカンスで気に入った街はバカンスだからこそ良いのであって、そこで暮らすとなると躊躇してしまう。もちろん、「どういう街で暮らしたいか」というのは個々人のライフスタイルや価値観によって異なるので、私が良いと思った場所が他の人にとっても同じかどうかはわからない。私が「住んでみたい」と思う街の条件はいろいろあるのだが、大雑把に言うと「文化や歴史を感じる場所が身近にあること。散歩をして楽しい風景や自然が周囲にあること。一人でのんびり本を読める居心地の良い空間が街の中にあること。美味しい郷土料理があること」などが挙げられる。
欧州最古の大学がある北イタリアの古都ボローニャは、私にとって数少ない「住んでみたい街」の一つだ。今も昔も、若い学生たちの活気が息づく学芸都市の魅力をご紹介しよう。
街の豊かさがわかる公共施設
ボローニャ中央駅から旧市街の中心にあるマッジョーレ広場へ向かって歩き始めると、すぐにポルティコと呼ばれる柱廊のアーケードが現れる。夏は暑く、冬は寒さが厳しいボローニャだが、このポルティコが街の隅々まで続いているお陰で、雨も雪も厳しい太陽も避けながら歩けるのはとても嬉しい。人気ブランドやカフェが軒を連ねるにぎやかなショッピングストリートのインディペンツァ通りを10分ほど歩くと、ボローニャのシンボルとして有名なネプチューンの噴水が正面に、左手奥には煉瓦の二つの塔が見えてくる。ヨーロッパでも有数の保存状態の良さで知られる中世時代の街並みが続く旧市街は、第二次大戦中にかなりの空爆を受けたにもかかわらず、ルネッサンスやバロック時代の貴重な芸術品の数々を奇跡的に残している。
一方、ボローニャ人はそうした歴史的な建築物を保存するだけでなく、現代人の生活を豊かにするための施設として再利用することにも長けている。マッジョーレ広場に面した市庁舎はボローニャを代表する歴史的建造物だが、その一角にある「サラボルサ (Sala Borsa)」は、誰でも無料で自由に利用できる公共施設として解放されている。中にはイタリア屈指の児童書の蔵書を誇る市立図書館があり、勉強や読書、DVD、CDなどを存分に楽しめる設備と空間が整っている。ガラス張りの床の下には古代ローマ遺跡が見られ、一角にあるカフェテリアでは、地元の学生からお年寄り、観光客まで、誰もがカップを片手に思い思いの時間を過ごしている。街の中心にこんなに美しく解放的な公共施設があることだけでも、この街の暮らしの豊かさがうかがい知れる。



中世の商人達の活気が今も息づく地区
マッジョーレ広場の横には、ボローニャ市民の憩いの場である「クアドリラテーロ」と呼ばれる地区がある。中世時代「ギルド」と呼ばれる商工業の組合があったこの界隈は、街の商業の中心地としてにぎわってきた。今も当時の面影を残す狭い二つの通り沿いには、生鮮食品を売る店や、安くて美味しいレストラン、エノテカ、カフェ、衣類や宝飾品などの店がぎっしりと軒を連ね、そぞろ歩くだけでもウキウキしてくる。このエリアの中心にはボローニャ市民の台所であるメルカート(市場)があったが、2008年にその市場は一旦姿を消してしまった。そして6年後に装いも新たにオープンしたのが現在の「メルカート・ディ・メッゾ/Mercato di mezzo」である。古くから市民の台所であったという歴史を踏まえた上で、この場所を誰もが気軽に美味しいものを楽しめるイートイン・スペースとしてリニューアルした。一人でもふらっと入れる気楽さ、一杯のグラスワインから本格的な郷土料理まで楽しめるメニューの多彩さなど、住民はもちろん旅行者にとっても便利で魅力的なスポットとして人気を呼んでいる。


