南国台湾にも冬はやってくる。

    本島の北の端、台北の1月、2月は最低気温が10度を下回る日もある。私が長期滞在するとき泊る安宿では暖房が機能しないので、浴槽に湯をためて身体をじゅうぶんに温めてからベッドに入らないと風邪をひく。湿度の高い台湾では、同じ気温でも日本よりずっと寒く感じるのだ。

    では、台湾の人にとって冬は寒くて憂鬱な季節なのかというと、ちょっと違う。

    冬はじつはおしゃれの季節である。一年の大半をTシャツ短パンで過ごせる台湾には、おしゃれを楽しむという点で物足りなさを感じている人が多い。1月~2月は単に防寒のためではなく、重ね着やコート、帽子やマフラーなどのコーディネートを思いっきり楽しめる季節なのだ。

 

 1月中旬、台北の雙連朝市でひと休み中のおしゃれな買い物客

   そして、台湾の人たちのもうひとつの冬の楽しみが鍋。数ある鍋のなかでも冬場とくに食べられているのが羊肉鍋(ヤンロウグォ)とか羊肉爐(ヤンロウルー)と呼ばれる山羊肉鍋だ。

   2年前の冬、台北のビル街の裏でひっそり営業していた店で、冬の幸せを噛みしめる人々を多く見かけた。

 

台北のビル街で出合った鍋店

   台湾の鍋は何人かで囲むものとは限らない。一人で食べることもごく普通だ。その店もカウンターやテーブルで一人、鍋と向き合っている老若男女が多かった。

 

紅燒羊肉鍋。スープは醤油系で漢方風味。山羊肉には冷えた身体をあたためる効果がある

   客席の小さなコンロの上に鍋がのせられる。厨房で加熱済みなので、すぐ食べられる。肉は難なく骨からこそげ落とせる。エノキダケやシメジ、凍り豆腐や揚げ湯葉、カニカマボコも入っている。鍋の底には黄金の春雨が隠れている。

 

客席のコンロで仕上げに煮立たせる

 

   客のほとんどがごはんを頼んでいるので真似をする。春雨と肉をのせてもりもり食べる。肉の脂と漢方が溶け出した醤油系のスープをふ~ふ~しながらすする。夢中でこれを繰り返していたら、いつのまにかごはんがなくなっていた。

 我に返って店内を見回す。湯気の向こうの顔、顔、顔がみな幸せそうだった。

 

ごはんの上に肉と春雨をのせて


鍋料理で冬の幸せを噛みしめる人々

※本稿の一部を修正しました。台湾で「羊肉」と書かれたものの多くは、日本で言う山羊(ヤギ)の肉でした。「ラム肉」は生後12カ月未満の羊の肉に限定した呼び方ですので、「ラム肉」と書くことは誤りでした。