文・光瀬憲子

 

台湾は胃袋と直結する

 台湾へ行こう。そう思う目的は何だろう?

 小籠包を食べること。夜市を歩くこと。足裏マッサージをすること。占いをすること。どれも楽しいけれど、やっぱり台湾は胃袋と直結する。食べることがいちばん大事だ。

 九州ほどの大きさの小さな島に、なぜあれだけ多様な食べ物が存在するのだろう。私は台湾に7年暮らし、その後も頻繁に台湾を訪れているけれど、行くたびに「食べたことがないもの」に出合う。

 台北東京と同じ、地方出身者の集まる大都会だ。だから台湾全土の食べ物がここに集まる。台南名物の虱目魚粥(白身魚の粥)も、嘉義名物の鶏肉飯もある。

 

■首都台北の全体像をつかむ

 台北市はMRT、在来線、新幹線など路線がすべて交わる台北駅を中心に南北東西に4分割できる。道の名前は台北駅より南にあるものは○○南路、北にあるものは○○北路となる。東西も同様。そして、ざっくり分けて西が下町、東が新都市といった雰囲気だ。私は下町が好きなので、西側にある艋舺(写真)、迪化街、大稻程といった古い町並みをよく歩く。一方、東側にはデパートやシネコンなどの新しくてオシャレなスポットがそろい、オフィス街としても機能している。超高層ビル、Taipei101があるのも東側だ。

■移動式屋台、固定式屋台、ドアのない店舗……

 では、食べ歩きはどのエリアがいいのか? これも場所によって特徴があるが、台北市内だけでも大小さまざまな夜市が10カ所以上あるので、例えばホテルに近い夜市で楽しむのも効率がよいと思う。また、夕方から夜市で賑わう場所は、早朝から昼過ぎにかけて野菜や精肉を扱う朝市になっていることも少なくない。同じスペースを2つの店舗が利用するのはよくあることなのだ。昨夜訪れた夜市に、翌朝早起きして足を運んでみると、新たな発見があるかもしれない。

 屋台にもいろいろな種類がある。小さなカートだけの完全移動型で、朝市で小籠包だけを売る屋台もあれば、半固定型で夕方になるとパタンパタンと屋台を広げ、そばの歩道にテーブルと椅子を並べる店もある(写真)。さらにドアはないが店舗を構える庶民派食堂もある。店頭に屋台カートが置いてあり、その奥に飲食スペースがあるのだ。共通しているのは、屋台がある店は可動式であれ固定式であれ、値段が安くて人間味があるということ。

■台湾料理=屋台料理にあらず

 屋台以外にも楽しい食堂はたくさんある。今回紹介する『田園台菜海鮮餐廳』(写真)は台北の東側、デパートやオフィス街の近くに位置する食堂だ。

「台菜」は台湾料理を意味するが、台湾料理=屋台料理というわけではけっしてない。この店は屋台では食べられない台湾の家庭料理や、少しよそ行きな台湾の伝統料理が得意。

 店頭には生簀が置いてあり、カニやエビをはじめ、自慢の魚たちが常連客を歓迎する。入口は狭いが店内は奥行きがあり、どのテーブルにも「予約」の札が置いてある。台湾の家族連れやビジネスマンに人気で、平日も予約でいっぱいなのだ。

 でも、私が入口で「2人なんですけど…」と指を2本立てると、「あ、じゃあとりあえずここに座って」と予約の札をテーブルの隅に寄せて私たちを通してくれた。「いいの、いいの、7時半までは来ないから」とメニューを差し出す。もう7時だけど、いいのかな…と不安を抱きつつ、席に着く。台湾での食べ歩きは、こういうアバウトなところがうれしい。

 お通しには枝豆と茹でピーナッツが出てきた。枝豆は日本のようなさっぱり塩味ではなく、少しオイリーで胡椒が効いている。ピーナッツは柔らかく煮てあり、ちょうどいい塩加減。それに、飲酒人口が少ない台湾でかならずビールがあるのは海鮮や鍋の店。ここも例に漏れず、壁際に大きな冷蔵庫がある。セルフサービスで台湾啤酒クラシックを1本取り出す。冬でもあまり気温の下がらない台湾は年中ビール日和だ。

 メニューには海鮮が目立つ。台湾人は海鮮をあまり生では食べない。煮たり炒めたりするのが基本。私は海老の卵炒めとタウナギ炒めを選んだが、そう決めるのにずいぶん時間がかかってしまった。とにかくメニューが豊富なのだ。「招牌料理」(看板メニュー)は、骨付き豚肉の炒め物や牡蠣のニンニク炒め、そして「人気熱炒」(人気の炒め物)は、豚マメ(腎臓)炒めやウリとアサリの炒め物。いずれも四川料理や上海料理といった中国大陸の料理とは違った風味があり、食材も台湾ならではのものが多い。

 

■ふわふわ、エビの玉子炒め

 大きな皿に盛られたエビの玉子炒め(写真)がやってきた。たっぷりの卵の黄色、新鮮なエビの赤、そしてネギの青みが実に美しい。材料も調理法もいたってシンプルな料理。それなのに、ひと口食べて「旨い!」と唸ってしまう。

 どれも慣れ親しんだ味なのに、玉子はふわふわ、エビは甘みが強く、大きくてプリプリ! しかも絶妙な炒め具合ですごく柔らかい。特別なソースがかかっているわけではなく、塩味のみ。でも、こんなに美味しい塩炒めを私は食べたことがない。エビの鮮度がこれ以上ないくらいに生かされている。刺し身こそメニューにないが、田園の料理はすべて新鮮さで勝負している。仕入れにもかなりのこだわりがあるようだ。

■とろ~り、ご飯にかけたいタウナギ炒め

 タウナギ炒め(写真)のほうはもう少し強烈である。こちらはウナギのような姿をしたタウナギのぶつ切りとたっぷりの玉ねぎが、とろみのある茶色いソースで和えてある。惜しげなく振りかけられた香菜の緑色が鮮やかだ。甘味と辛味が混ざり合い、胡椒のきいたパンチのあるソース。肉厚なタウナギ、シャリシャリと歯ごたえの残る玉ねぎと絡まって食欲をそそる。これはビールのツマミにも最高だが、白米の上にドロっとかけて食べてたくなる。大好きな香菜といっしょにほおばると、爽やかな風味が増す。これはいい。

 店内では中年サラリーマンがテーブルを囲み、台湾語で話に花を咲かせている。台湾の共通語は北京語だが、地方出身者同士は台湾語で話したがることが多い。ペースの速い大都会の暮らしの中で、気の置けない仲間と台湾語で語り合いながら、ちょっと贅沢な台湾料理を食べる。都会でがんばる台湾人の幸せがここにある。

 

【台湾の人情食堂 vol.1】(2015.12.04)

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