文/光瀬憲子

 

■雨宿りと廟と映画『モンガに散る』

 台北は雨が多い街だ。5月、6月は梅雨に当たり、7月から9月はスコールのような激しい雨がザッーと街を濡らす。そして12月から2月の冬は骨を湿らせるような冷たい雨がしとしとと降り続く。

 台湾語では艋舺(バンカ)、北京語では萬華(ワンホァ)と呼ばれる、東京でいえば浅草のような街で清水厳祖師廟(写真)と出合ったのはほんの偶然からだった。パラパラと降り始めた冬の雨をしのぐため、雨宿りのつもりで足を踏み入れたのがこの廟だった。

 

 台湾にはいたるところに大小さまざまな廟がある。廟は庶民の信仰の拠点であり、心の拠りどころだ。朝の散歩の途中に、買い物帰りに、デートの途中に。台湾の老若男女はじつに気軽に、そして頻繁に廟を訪れる。

 清水厳祖師廟は、実は大好きな台湾映画『モンガに散る(原題=艋舺)』の撮影が行われた場所だった。台北の下町艋舺は、1970年代に全盛期を迎えた。台湾で3本の指に入る繁華街であり、商売人も、ヤクザも、金持ちも、田舎者も、誰もが艋舺に押し寄せた。映画は、そんな艋舺の全盛期に起きた黒社会、つまりヤクザやチンピラどうしの縄張り争いがベースになった物語だが、主人公の青年やその仲間の友情、淡い恋心などが湿っぽい台北の街の風景とともに描写されていて、なんとも情緒がある。

 艋舺は、かつて日本人観光客がもっとも多く訪れた華西街観光夜市がある場所であり、今でも龍山寺という台北でもっとも古い寺があるため、日本人に人気のエリアだが、「モンガに散る」に描かれているような裏の艋舺を知る旅行客は少ない。

モンガに散る スペシャル・エディション [Blu-ray]
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2010年製作/141分/PG12/台湾
監督・脚本/ニウ・チェンザー、出演/イーサン・ルアン、マーク・チャオほか