文/光瀬憲子

  2019年の10月に『台湾漬 二十四節気の保存食』(種籽設計 著/翔泳社 刊)という書籍の日本語翻訳を担当する機会に恵まれた。

 この本はレシピだけでなく、台湾の保存食の歴史、文化、そして作り方、食べ方などを可愛らしいイラストや写真とともに紹介していて、見ているだけで楽しくなる。

 今回は、台湾では保存食がどんなふうに食べられているかについて書いてみる。

 

旧正月の前、迪化街で売られる大量の乾物(干しイカ)

■じつは多彩な台湾の保存食

 そもそも台湾に漬物があるのか? という疑問の声もあるかもしれない。日本では保存食といえば東北など寒い地方で、冬のあいだの食糧に困らないよう、収穫物を干したり漬けたりして保存するイメージが強い。キムチを常食する朝鮮半島も同様だ。

 しかし、台湾は気候が温暖どころか、南部は熱帯にあるので、保存食はもっぱら「腐らせないように」という目的で作られるものが多い。だが、温かい台湾でもすべての食材が一年中穫れるというわけではなく、それぞれにシーズンがある。

 たとえば、台東から船で2~3時間かかる蘭嶼島(らんしょとう)という離島。ここは住民のほとんどがヤミ族という先住民で、トビウオを主なタンパク源としている。トビウオ漁のシーズンは男たちが海に出て一年分のトビウオを捕獲し、島の女たちが魚を干して保存する。一年間、自分たちが食べるに足りる分だけをいただき、乱獲はしない。それが彼らの掟だ。

蘭嶼島でトビウオ漁に使われる先住民のタタラ舟。ヤミ族のシンボルでもある

トビウオ漁は3月から6月。漁を終えると蘭嶼島のあちこちでトビウオの日干しが見られる

■漬物の活用法 

 台湾でよく食べられている漬物に酸菜がある。もともとは中国東北部で冬を越すために白菜を発酵させて作る酸っぱい漬物だった。

 中国では今も白菜で作られることが多いが、台湾では白菜のかわりにカラシナやタカナもよく使われる。台湾の代表的な麺類、牛肉麺を食べると、麺の上に緑色の漬物がのっていることがある。これが酸菜だ。台湾では旧暦の正月に食べることが多いため、11月~12月頃に酸菜作りのピークを迎える。ひと月ほど漬け、旧暦のごちそうに添えられる。

 

台北市内の市場で見かけた酸菜。大きなカラシナの葉に塩をまぶして作られる

■日本の「梅干し」とは無関係な「梅干菜」 

 もうひとつ、台湾でもよく食べられている代表的な漬物に「梅干菜」がある。「霉干菜」とも書く。梅干菜という字面を見ると日本の「梅干し」に関係があると錯覚してしまうが、そうではない。「霉」という字はカビを意味する。「霉雨」と書けば、カビが生えやすい雨の季節、そう梅雨である。中国南部ではこの漬物を梅雨の時期に干して作るため、「霉干菜」と呼ぶようになったといわれている。その一方、作る時期とは関係なく、発酵させカビを生じさせて作るために「霉干菜」と呼ぶようになったという説もある。

 梅干菜は塩をして発酵させたカラシナをさらに日干しにして作られる。乾燥した状態で販売しているのを、迪化街などの乾物街でよく見かける。

 この梅干菜を使ったもっとも有名な料理が梅干菜扣肉という豚の角煮だ。豚バラ肉を梅干菜とともに醤油で煮込んだ料理で、梅干菜のさっぱりとした風味が食欲をそそるだけでなく、発酵食品であるため消化を助け、解熱作用もあるといわれている。

 梅干菜は、現在は台湾や中国で広く作られているが、もともとは客家の名菜だ。客家人が多く住む新竹や桃園の中華料理レストランでよく見かける。

 

梅干菜とタケノコを煮込んだもの。台湾の弁当などによく使われる
台湾漬 二十四節気の保存食 Kindle版
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台湾が教えてくれる「季節と風土を大切にする健康的な食文化」「台湾版丁寧な暮らし」をお楽しみください。

『旅の本屋のまど』(西荻窪)で、台湾の保存食についての講座を行った(左端、サインをする筆者)。2019年12月

【台湾の人情食堂 vol.96】(2019.12.13)

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