国土の周囲に美しい海、内陸には世界有数の名山が連なるイタリアには、古代ローマの時代から自然と人とが上手に共存して来た街や村がいくつも存在する。ウンブリア州やトスカーナ州には自然のままの地形を生かし、断崖絶壁の丘の上に築いた中世時代の城塞都市がたくさんあり、その唯一無二の景観はイタリアという国の多彩な魅力をさらに際立たせる要素となっている。
これまでイタリア各地で多くの「一度見たら忘れられない絶景」を見て来たと思っていた私だが、先日ふと目にした新聞記事で、実はまだまだ知らない場所がたくさんあることに気付かされた。その中の一つが、『トスカーナのマテーラ』と異名をとるソラーノ。山奥の断崖絶壁にそびえる絶景を求めて、トスカーナ州で最も美しい村の一つと言われるソラーノを訪れた。

 

中世の山岳城砦都市

 ローマの西北約110km、ソラーノは、別名『トスカーナのマテーラ』と呼ばれている。マテーラはバジリカータ州にある世界遺産の街で、石灰岩の侵食によって出来た渓谷に無数の洞窟住居(=サッシ)が重なり合う景観は、南イタリアの絶景の一つとして特に有名だ。そのマテーラの絶景に匹敵するというソラーノの村へは、ローマから車で2時間ちょっと。日帰りでも行ける距離に、そんな名所があったことを私は全く知らなかった。

 村が近づくにつれ、道路脇に『Città del Tufo(トゥーフォ=凝灰岩の街)』という看板があちこちに見えて来た。建築材として重用されている凝灰岩でできているこのエリアには、渓谷の断崖を見下ろすようにそびえ立つ村が点在している。中の一つであるソラーノの歴史はとても古く、先史時代に遡るという。紀元前3世紀には既にこの地でエトルリア人が暮らしていたという記録も残っており、「エトルリア時代の最盛期に栄えた古代文明の都市であった」と言われている。

 二つの渓谷の谷間を流れるレンテ川を見下ろす絶景ポイントは、グロッセート周辺を走る州道S.P22号線上の途中にあった。一見するとカーヴの脇に作られた小さな駐車場のようだが、実はここが「トゥーフォ地区考古学公園」の入り口になっている。健脚なら凝灰岩の洞窟群を真下に眺めながら、村から村へと山伝いに歩いて行くこともできる。考古学公園の中の自然遊歩道を歩いて行くと、目の前にいきなり絶景が開けてきた。白い霧でぼやけた緑の渓谷の断崖の上に、無数の穴が空いた巨大な岩が連なり、その上に段々に重なるように煉瓦造りの住居が連なっている。中世時代、このエリアの重要な城砦であった古代都市の幻想的な姿に、息を飲んで見入った。

 





「サン・ロッコの断崖居住地区」と呼ばれる考古学公園の入り口。自由に出入りできるが、足場が悪い山の自然道なので、冬季や夜間の立ち入りは控えた方が無難(上)。ソラーノからヴィトッツァへ続く登山ルートの地図。凝灰岩の断崖絶壁の周囲をハイキングすることもできる(中)。公園内のパノラマ・ポイントから眺めるソラーノの村(下)