文・写真/サラーム海上

 

■リスボンの2つ星レストラン『ベルカント』訪問

 2021年10月26日火曜、リスボン三日目。蛸(タコ)雑炊やバカリャウ(干し鱈、詳しくは次回以降紹介予定)、シーフードなど、典型的なポルトガル料理についてはある程度イメージがつかめるようになってきたし、この後もポルトに移動して色々食べるつもりだ。それでは、現代ポルトガルのフュージョン料理とはどんなだろうか? 僕の専門であるワールドミュージックにおいても、古い民族音楽/伝統音楽を知るのと同時に、その現在型/発展型を知ることが重要だ。料理も音楽も古いものと新しいもの、その両方を常に知る必要がある、というか知るのが楽しいのだ。

 そこで日本出発の直前に、2021年度の「The World Best 50 Restaurants」で第42位に選ばれ、ミシュランでも2つ星を獲得しているレストラン『BELCANTO(ベルカント)』を予約しておいた。ディナーは既に満席だったが、ランチに空きがあったのだ。

 ここは、カタルーニャの伝説のレストラン『エル・ブジ』でフェラン・アドリアに学んだポルトガル人シェフ、ホセ・アビレスが2012年にオープンした。伝統的なポルトガル料理を現代的に再構築した料理はすぐに評判となり、国内外から注目され、2年後にはミシュラン2つ星をポルトガル人シェフとして初めて獲得している。

 ベルカントは、バイシャの西側の高台シアード地区にある。リスボン到着した初日、不用意に坂道を歩いて登ってしまい、ヘトヘトに疲れ果ててたどり着いた場所だ。もうあんなキツイ坂は登りたくない。地下鉄のバイシャ・シアード駅から直結した長いエスカレーターに乗れば、急な坂道を歩かずにシアード地区に到着する。そこで午後12時半に宿の目の前のアベニーダ駅から地下鉄に乗り、2駅先のバイシャ・シアード駅で降り、件の長いエスカレーターに乗ると、午後1時前に全く汗をかくことなくシアード地区の瀟洒な通りにあるベルカントに到着した。

テージョ川に面したリスボンの入り口、コメルシオ広場
シアード地区の細い通りに面したベルカントの正面入口

 お店の外観はクリーム色の壁に煉瓦色の屋根の中層階建て、典型的なリスボンの建物だ。外から見ただけでは、どんな店なのか全く見当もつかない。ガラス張りのドアを開け、名前を告げると、入り口近くのテーブルに案内された。

 一階は天井が高く、大きな窓からの明るい光と淡い暖色のインテリアやカーテン、テーブルの間隔もゆったり、上品で落ち着ける。店内は左から建物を周りこむように大きなサロン、右奥にオープンキッチン、中央には天井の低いガラス張りの中二階の部屋もある。既に半分ほどのテーブルが埋まり、ウェイターが忙しそうに行き来し、女性のソムリエールがワインを運んでいた。

一階の広い店内。中央上にはガラス張りの中二階

 テイスティングメニューは2種類。6品で175ユーロ(23,105円)のベルカントメニューと、完全サプライズで195ユーロ(25,745円)のエボリューションメニュー。そして、それぞれに対応したペアリングワインは95ユーロ(12,542円)と135ユーロ(17,825円)。ベルカントメニューのほうは6品の料理が記載されているが、エボリューションメニューのほうは料理について何も記載されておらず、ただ下の文章が添えられているだけだった。

「エボリューションメニュー:

 進化し、変革し、前進し続けること。このメニューには、常にポルトガルの人々を定義してきた克服の精神があります。私たちは存在するものに決して満足しないので、知識と熱意を持ってリスクを冒し、再発明するのが好きだからです。私たちは最も象徴的な料理のいくつかをもう一度見直して、それらを再発明し、さらに一歩進んで、私たちが知っていることから未知の出発点を探求することにしました。私たちは伝統に革新を導入しました:新しい味、食感、アイデア、感覚。エボリューションメニューをぜひご堪能ください」

 若いウェイターに内容を尋ねても「サプライズだらけです!」との返事で、具体的にどんな料理が出るのかは教えてくれない。どちらのメニューを選んでも特別な体験は出来るだろうが、折角なら驚きや発見が多いほうが良い。清水の舞台から飛び降りる気分で、エボリューションメニューとそのペアリングワインを選んだ。

ウェルカムドリンクはレモンジュースで割ったエルダーフラワーのリカー
アミューズは海老味噌を詰めた一口サイズのバンズ、キャビアのせ