文/チョン・ウンスク

 

 私が東京に語学留学していた1990年代後半、知人の日本人男性が「これぞ、日本のサラリーマンの(おやじの)食べもの」と教えてくれたのが、立ち食いそばだった。

 その日本人男性がお店で注文したのが、かけそばだ。小さめの丼に入ったどす黒いスープと灰色のそば。具はネギだけが申しわけ程度にのっていて、正直「しみったれている」と思ってしまった。韓国ではどんな料理を頼んでも、キムチやナムルが1~2皿は添えられるからだ。

 しかし、おしゃれなどにまったく関心のなさそうなサラリーマンが、するずるとそばをすすり、空いたどんぶりをサッと返して店を出て行く姿は頼もしく、どこかかっこよくも見えたのも事実。「日本人は本当に働き者だなあ」と、つくづく思ったものだ。

 韓国では少々忙しいときでも、昼ご飯を抜いたり、簡単に済ませようとしたりはしない。それは健康的ともいえるが、悠長ともいえる。韓国人といっしょに仕事をする日本人がイライラするのはこんなときだ。私も取材コーディネートの仕事でそんな場面に居合わせて気をもんだことが何度もある。

 

■日本のかけそば、韓国のチャンチククス

 では、食べることをおろそかにしない韓国には、かけそばのような簡便な食べものはないのだろうか? それがあるのだ。同じ類のチャンチククス(スープの入った温麺)である。

 

ソウル市場屋台で出てきたシンプルなチャンチククス4000ウォン

 チャンチは宴会、ククスは麺という意味で、もともとは結婚式などの祝いごとで食べるものなのだが、今では軽食店やバスターミナルの前などにある屋台の定番メニュー。麺は日本のそうめんやにゅうめんに近いもの。スープはイワシや牛肉などでダシをとった関西風のあっさり味。麺がのびやすいので、スープの温度は日本のそばと比べるとぬるめだ。

 具は刻みネギやニンジン、海苔が基本。日本のかけそばよりカラフルだ。たいていハクサイかダイコンのキムチとタクワンが添えられる。ボリュームは日本のかけそばの大盛りくらいはあるので、日本の人にはじゅうぶんな量だろう。

 

仁寺洞の東側にある楽園商街地下市場のチャンチククス2000ウォン
楽園商街の地下市場は仁寺洞のフレーザースーツ(ホテル)側やタブコル公園側に入口がある