地中海を挟んで目の前にチュニジアを望むシチリア島最西の街マルサーラ。イタリアでも人気の高い天然の塩とマルサラ酒の故郷、という程度の知識しか持たずに足を向けた。かつてアラブの支配下にあった時代に「マルサ・アラー(アラーの港)」という名前を与えられたこの街で、エキゾチックな異国情緒に浸ってみたい…。そんな思いで冬のシチリア島へ飛んだ。

 

■朝から満腹! シチリアのバールは奥が深い

 早朝の飛行機ローマからトラパニへ1時間、そこからマルサーラまで車で約40分。街に着いてまっ先に駅前のバールへ飛び込んだ。朝食はおろかカフェさえ飲まずに飛行機に乗ったので、まだ寝ぼけたままの頭をシャッキリとさせたかったのだ。

 朝8時のバールは、地元の老若男女で賑わっていた。テーブルに腰掛け新聞を広げているおじいさん、ハイヒールをカツカツいわせながら歩き回る若い女性、大学生らしき男子のグループもいる。ローマでも見慣れた光景だが、マルサーラの朝のバールには、もっとのんびりとした空気が漂っている。生活リズムそのものが大都市よりもゆったりとしているせいだろう。カウンターでカフェだけを注文した私の周りでは、みんなが大きな焼きたてのパンのようなものを嬉しそうに頬張っている。イタリアの朝食の定番、クリームたっぷりの甘いパンだろうと思って目をそむけようとした私に、バールのお兄ちゃんが「シニョーラ、パンはいらないの?」と聞いてきた。「私、甘いものが苦手なのよ」と答えると、「じゃぁ、こっちのサラート(塩を含んだもの)にすれば? うちのパンは作りたてだから美味しいよ」と言ってケース越しにずらっと並んだパンを指差した。隣の男子の手元に目をやり、「それ何? 美味しい?」と聞くと、「トマトソースとモッツァレラ。絶品だよ」と即答された。普段はカフェだけの私だが、早朝から動いていたせいか何か食べたくなってきた。男子と同じパンを注文し、早速ひとかじり。

 「うまっ!!」思わず日本語が飛び出すほど美味しい。こんがりときつね色の表面はパリパリ、中はしっとりふわっふわ。ほんのり塩味が効いているモチっとした生地に、トロトロに溶けたモッツァレラと重厚なトマトソースがよく合う。かじるたびに口の中にジュワッと広がるジューシーなトマトの風味。ああ、これぞまさしくシチリアの味!

 



シチリア島は美食の宝庫。その底力を思い知るのがバールの軽食。パーネ・サラートと呼ばれる野菜や肉、チーズが入ったパンやアランチーノ(=ライスコロッケ)など、どれも手作りの絶品が2ユーロ程度で食べられる。