文/チョン・ウンスク

  

ソウルバスターミナルから2時間、槐山という町

 先週のソウルはコートを脱ぎたくなる陽気だった。仕事場でPCに向かっているのがいやになった私は、着のみ着のままで東ソウルバスターミナルに向かった。目的地は決めていない。

 窓口で行き先と料金を示す表示板を眺めていると、괴산(ケサン=槐山)の文字が目に入った。忠清北道の北西部に位置する田舎町で、唐辛子祭りが開かれることで有名だ。

 

2号線江辺(カンビョン)駅前にある東ソウルバスターミナルからバスで2時間の槐山バスターミナル

昔ながらの酒場風景

 槐山を初めて訪れたのは『マッコルリの旅』という本の取材をしていた十年ほど前のこと。バスターミナルの近くに老夫婦が営む「天大運食堂」(チョンデウン・シクタン)という名の酒場兼自宅があり、地元の呑兵衛たちが昼間から酒盛りをしていた。

 店先の冷蔵庫をカウンター代わりにして立ったまま飲む男たち、4~5人が座れるだけのテーブルと奥には小さな座敷。マッコリはボトルに入った大量流通品ではなく、近くの醸造所からタンクで仕入れたもの。棚には主人が山で採ってきた果物や薬草を漬け込んだ酒が並んでいる。

 当時、私が追い求めていた昔ながらの大衆酒場の姿を見つけてうれしくなり、常連の農家のおじいさんや近所で食堂をやっているおじさんたちと、楽しくマッコリを酌み交わした。つまみは女将手づくりの豆腐とキムチ。少々いびつな形の豆腐は、ああ豆腐とは大豆からできているのだなと実感できる素朴な味だった。

 常連の一人から「唐辛子の収穫の季節にまたおいで」と言われ、再び訪れたのはその2年後。女将が紹介してくれた農家を訪ね、畑で唐辛子の採集を手伝わせてもらった。味噌をつけた唐辛子をポリポリかじりながら飲むマッコリは最高の味だった。農酒(ノンジュ)という別名をもつマッコリの神髄に近づけた気がした。