白くて甘いごほうび

 ようやく168段を登り切ると、ごほうびが待っている。怠け者の私がただで苦しい階段を登るわけがない。店の名は「625マッコリ」。レトロ観光地化の一環で2年ほど前にできたマッコリの店だ。625はもちろん朝鮮戦争が勃発した1950年6月25日に由来している。

 平日の昼下がり、客は誰もいない。店の向かい側でひなたぼっこしているアジュマ2人は、たぶんそうだろうと思ったが、やはり店の人だった。

 「オイソ」(いらっしゃい)

 と、私のあとから入って来たアジュマから声がかかる。

 

レトロとモダン折衷の「625マッコリ」。平日は15時~21時、祝日は14時~21時まで営業

 やかんに入ったマッコリを頼む。釜山の代表銘柄であるセンタク1本分だ。それを、とぷとぷとおわんに注ぎ、ぐっとやる。

 

小さなやかんマッコリが2500ウォン、ブチュジョン(ニラのチヂミ)が3000ウォン

 「懐かしさ、甘酸っぱさの入りまじった郷愁のようなものが、口の中に、鼻の奥に広がり、喉から食道にかけてとろりとした爽やかさが通りすぎ、そして腹の底から少しずつ醸されてくる酔い……」『わたしの釜山』川村湊(風媒社、1986年)

 マッコリがまだ荒々しい酒だった時代、釜山を舞台に、その旨さを伝えた日本人作家の名文だ。

 外国人である私には、このような繊細かつ力強い日本語表現は難しい。

 ただ飲む、餓鬼のように飲む。

 そして、アジュマにこう叫ぶのだ。

 「お姉さん、やかんをもうひとつ!」

 

 マッコリで気分がほぐれた私は、キム・ヨンエさんが生まれた影島を再訪したくなった。 ちょうどこの辺りにはマンディバス(旧市街観光用マイクロバス)の15番停留所がある。そこから乗り込めば30分ほどで影島のヒンヨウル文化村に着くはずだ。

釜山駅を起点に、影島、南港大橋、松島、甘川文化村、国際市場、山腹道路、民主公園、168階段などにある18の停留所を回り、再び釜山駅に戻ってくるマンディバス。1日10000ウォンで、どの停留所でも乗り降り自由。30分間隔で運行。

【韓国の旅と酒場とグルメ横丁 vol.33】(2017.4.14)