イタリアで暮らし始める以前はこの国に関してわずかな知識しか持っていなかった。パスタとエスプレッソとルネッサンス、そして古代ローマ帝国ぐらいしか知らなかった私は、ここで暮らすようになってからたくさんの嬉しい発見をした。料理や歴史、アート、音楽などその発見は各分野にあるのだが、中でもとりわけ魅了されたのが「モザイク芸術」だ。古代ローマ時代の遺跡にも数々のモザイク画が残っているように、イタリア人の暮らしとモザイク装飾は深いつながりがあり、歴史も長い。そのため、イタリア各地の主な教会や王宮などには素晴らしいモザイクがいくつも残っているのだが、特に「モザイク芸術の宝庫」として知られているのがエミリア・ロマーニャ州の古都ラヴェンナである。今回は、ユネスコの世界遺産にも登録されている『ラヴェンナの初期キリスト教建築物群』の至宝のモザイク芸術の数々とラヴェンナの魅力をご紹介しよう。

 

サン・ヴィターレ聖堂

 

共通チケットと地図を片手にモザイクを巡る

 アドリア海に面した港を持つラヴェンナの街は、戦略的、商業的、政治的な意味において古代ローマの時代からイタリアの重要な拠点であった。5世紀には西ローマ帝国の首都となり、6世紀には東ローマ帝国ラヴェンナ総督領、その後8世紀までビザンチン帝国の西方の首都として栄えてきたという歴史を持っている。ユネスコの世界遺産に登録されているモザイク芸術と教会建築群は、ラヴェンナが栄華を極めていた5〜6世紀に建設された。

   ビザンチン芸術の最高峰とも評されるモザイクを見に、旧市街のポポロ広場からサン・ヴィターレ聖堂へと向かった。

   サン・ヴィターレ聖堂のチケット売り場へ行くと、窓口のお姉さんが「この共通券で街の主なモザイクが見られるスポットに入れますよ」と言いながらチケット(9,50€)と地図を渡してくれた。見ると、サン・ヴィターレ聖堂、ガッラ・プラチディアの霊廟、ネオニアーノ洗礼堂、サンタッポリナーレ・ヌオーヴォ聖堂、大司教館の礼拝堂の5つのスポットにこの一枚のチケットで入場できると書いてある。7日間有効なので、1日で駆け足で回らなければ、という心配もない。スポットがポイントされた地図を眺めながら、「よし! 全部のモザイクを制覇するぞ!」という意欲が湧いてきた。地図とチケットを握りしめ、スタンプラリーに参加したような気分でワクワクのモザイク巡りがスタートした。

 



鉄道駅から徒歩10分でラヴェンナ旧市街の中心ポポロ広場に着く(上)。中世の面影が残る小さな旧市街。車の出入りが制限されているため、快適な街歩きが楽しめる(中)。ラヴェンナのモザイク共通券はサン・ヴィターレ聖堂他共通券が有効のモニュメントのチケット売り場で購入できる。ガッラ・プラチディアの霊廟への入場には3〜6月中旬の期間のみ共通券プラス2€が必要(下)

 

1500年前とは思えない色鮮やかなモザイクに感嘆

 スタンプラリーの第一ポイントであるサン・ヴィターレ聖堂は聖ウィタリスの聖遺物を祀る霊廟として6世紀に建てられと言われているが、その建築の経緯はいまだに謎に包まれているそうだ。入り口で共通券にパチンと穴を開けてもらい、早速聖堂内へ。薄暗く、古代ローマの遺跡のようにがらんとした内部を見渡し、正面の内陣に目を向けるや否や思わず息を飲んだ。天井まで埋め尽くす豪華絢爛な黄金のモザイクが天窓の日光を反射し、文字通り眩しいほどに輝いている。内陣にはイエスを中心に、ユスティニアウス帝、皇妃テオドラ、天使や羊などが金と紺、緑のモザイクによって描かれている。1500年も経っているとはとても思えない鮮やかな色彩に、自然と感嘆のため息が漏れる。

 サン・ヴィターレ聖堂の隣には、ラヴェンナで最も古いモザイクとして名高い「ガッラ・プラチディアの霊廟」もある。ローマ皇帝テオドシウス1世の娘であり、後に西ローマ皇帝コンスタンティウス3世の皇后となったガッラ・プラチディアは敬虔なカトリック教徒で、いくつもの教会にさまざまな寄進をした。5世紀に建てられたこの建物も、元はサンタ・クローチェ教会に付属する建築物としてガッラ・プラチディアが寄進したものだったが、結局、彼女自身がここに埋葬されることとなった。霊廟内は黄金一色だったサン・ヴィターレ聖堂のモザイクとはうって変わり、壮大な宇宙を思わせる深いブルーと金で統一されている。生涯を通じて敬虔なカトリック教徒であった高貴な女性にふさわしい威厳と優しさに満ちたモザイク装飾で彩られた霊廟内は、今なお当時のままの輝きを放ち、私たちを魅了し続けている。

 



黄金のモザイクに圧倒されるサン・ヴィターレ聖堂内(上)。外観はとても質素な煉瓦造りのガッラ・プラチディア霊廟(中)。霊廟内は当時のままの美しさと輝きを放つブルーと金のモザイクで装飾されている(下)