文と写真・サラーム海上

 

■クラクフのユダヤ人文化フェスティバルとは?

 2019年9月3日午前5時、クラクフの宿『Hotel Pod Różą(バラの下)』の部屋で眠っていた僕は、窓から聞こえる聖マリア教会の尖塔から流れてくるトランペットの短い不自然な切れ方をする旋律で目が覚めた。窓を開けると外は大雨だった。

 聖マリア教会は14世紀に建立されて以来、尖塔の上にトランペット吹きが昼夜常駐し、24時間定時にトランペットによって時報を演奏してきた。そのメロディーが不自然な形でハタっと中断されるのは、1340年のモンゴル侵攻に由来する。モンゴル軍の襲来をいち早く見つけたトランペット吹きが警笛を吹いている途中で、狙撃兵によって喉を射られた。その歴史が忘れられないよう、トランペット吹きが吹いていた旋律が忠実に再現されている。

 

午前7時、宿の窓から見える聖マリア教会の尖塔

 今日は旧市街の南側にあるユダヤ人地区カジミエシュ観光と、クラクフで毎年6月に開催されている国内最大のユダヤ文化フェスティバル「Jewish Culture Festival(ユダヤ文化フェスティバル)」の創始者に話を聞くのが主なミッションだ。

 朝9時前に通訳のアンナさんとともに宿のロビーで折り畳み傘を片手に待っていると、現地ガイドのドミニカさんがタクシーで迎えに来てくれた。

 大雨の中、タクシーでヴァヴェル城からヴィスワ川を抜け、日本美術技術博物館、通称「マンガ館(北斎漫画のコレクションで知られるため)」の脇を通り、再びヴィスワ川を渡り、旧市街の南側にあるユダヤ人地区カジミエシュに入る。

 カジミエシュはカジミエシュ大王によって14世紀にユダヤ人居住区とされた。当時はヴィスワ川の中洲だったが、19世紀のポーランド分割時代にオーストリア政府によって埋め立てられ、旧市街と陸続きとされた。 

 カジミエシュ地区の中心、スタラ・シナゴーグの前の広場でタクシーを降りると、雨が小雨になっていた。これなら歩けそうだ。

 

秋の雨なので、タクシーに乗ったままヴァヴェル城を眺める
カジミシェのスタラ・シナゴーグの前の広場でタクシーを降りる