■ここではカフェ経営もバンド活動もペットの飼育も全部自由です!

 

 刑務官に案内されて敷地内を歩いていると 芝生の地面に座って、でっかいハンバーガーを頬張っている男性のそばにシェパードの雑種のような子犬がいた。どうも男性は、その子犬にハンバーガーを分け与えているようだった。

 

「この犬? これは俺たちが飼ってるんだよ」

 

 私が興味深そうに見ていると、男性は言った。刑務所内に迷い込んできた犬をみんなで飼っているらしい。

 

所内のカフェ(受刑者によって運営されている)で買ったハンバーガーを頬張る受刑者。この刑務所では買い食いも許されているらしい。子犬はみんなの飼い犬。刑務所に迷い込んできた犬を、みんなで可愛がっているらしい。

「そのハンバーガーはどこでゲットするの?」

 

 こんなに近くて受刑者と普通に話ができるなんて、信じられないと思いつつ、私は彼に尋ねずにはいられなかった(もちろん、通訳の森さんを介してだけど)。「服役中に地べたに座って、日向ぼっこしながら犬と一緒にハンバーガーを頬張る」の図、冷静に考えたら不思議だし、そのハンバーガーの出どころも気になるじゃないですか。

 

「これ? これは、ほら、あそこのカフェで買ったんだよ。あんたたちも買いたいなら、買えるぜ」

 

 そう言って彼が指差した先を見ると、〝校庭〟の端っこにプレハブのような小屋があり、外にメニューらしき立て看板があった。

 

 「あぁ、あのカフェは、受刑者が自分たちで運営しているんですよ」

 

 案内役の刑務官が教えてくれた。

 実は、受刑者が自分たちで運営しているのはカフェだけじゃなかった。

 ベーカリー、パティスリー、理髪店、ハンドメイド家具店、タトゥスタジオなど、刑務所内には、受刑者が運営するいろいろなショップがあり、刑務所の内外に商品を提供しているのだという。古いバスをポップにペイントし、その中で、どこからか本を調達してきて図書館を運営する受刑者もいるそうだ。

 〝校庭〟の一角で野菜を栽培して外の世界に販売する受刑者もいる。たくさんの〝従業員〟を雇ってコンクリートブロックを作って売る〝経営者〟もいる。

 いわゆる「刑務作業」というのとは違う。刑務作業は、あくまで刑務所側が主体となって受刑者を作業に当たらせて賃金を支払うというものだけれど、プンタ・デ・リエレス刑務所の場合、主体は受刑者だ。

 多くの場合、家族に支援してもらうなどして事業をスタートさせる。そして、いくばくかの税金(新しく事業をスタートさせる受刑者のための基金として活用される)を収めたら、残りは、自分の利益になるという。ただし、釈放されるまで、そのお金には手を付けることはできないけれど。

 

この刑務所では、カフェ、理髪店、パティスリーなど、受刑者によって運営されているショップがいくつもあるけれど、畑での野菜栽培も、受刑者によるビジネス。収穫した野菜は刑務所の外で販売して利益を得る。

刑務所内には受刑者が運営するパティスリーもあって、外の人にも製品を販売している。写真は、家族のために特大バースデイケーキを注文していた外部の人。ちょうど受け取って帰るところだったのを、頼んで写真に撮らせてもらった。

 この、受刑者が刑務所内で起業する試みもまた、世界的には珍しく、この刑務所がリベラルと見なされる理由のようだ。

 こうしたシステムは、先に登場した元ツパマロスの所長の主導で構築されたという。

 つい40年~50年ほど前には、同じ場所で、ルシアを始めとするツパマロスの仲間たちが非人道的な扱いを受けていたことを思うと、所長の気持ちはいかばかりか……。

 

 「悲しい歴史を忘れてはならぬ」の思いが込められているのか、1973年から1985年まで、600人以上の女性政治犯が収監されていたことが刻まれたプレートが、敷地内の地面に埋められていた。 

刑務所内とはとても思えぬ〝平和な絵〟。無防備な体勢で幸せそうに寝ているのは、受刑者たちがみんなで飼っている犬。後ろ姿の女性は刑務官。非武装、こんなラフな格好で、日々、受刑者と接している。
ワンコの横に埋まっているのはメモリアルプレート。 《軍事刑務所 施設番号2 プンタ・デ・リエレス刑務所 プンタ・デ・リエレス刑務所は、1972年から1985年まで政治犯の刑務所として機能していた。1973年以降、600人以上の女性を収容する政治犯の主な刑務所になった》と刻まれている。