■㊝刑務所にある「セイリノヘヤ」の真相に迫る!!

 

 屋外をひと通り見せてもらったら、次は、建物の中を案内してもらう。

 最初に見せられたのは、ガランとした空間の壁際にサンドバッグが吊るされ、前方にはちょっとしたステージのようなスペースがある部屋だった。コンパクトながら、体育館と講堂の両方の機能を併せ持つ場所なのだろう。

 

刑務所内の体育館兼講堂のような部屋。コンパクトサイズながら、ステージに見立てたスペースもある。ここでは、ある受刑者はグループで演劇の練習を、ある受刑者はサンドバッグを使ってボクシングに打ち込んだりする。

「私たちは、受刑者にいろいろな活動を勧めていますが、この場所で受刑者は、ボクシングの練習をしたり、演劇のリハーサルを行ったりします。もちろん、何をするかは、自分たちで自主的に選ぶ。外でサッカーに興じる人もいます。演劇のグループは、外の公の場で頻繁に公演を行っているほど、活動は精力的なんですよ」

 

 そう言いながら、刑務官は、体育館の奥へとズンズン進み、壁がポップでカラフルな色にペイントされた部屋に案内してくれた。

 そこは音楽スタジオということで、部屋の奥にはドラムなどの楽器が置かれていた。そのときは、たまたま音響調整担当の受刑者しかいなかったけれど、普段は、バンド活動をしている受刑者が集って賑やかだという。

 

音楽スタジオでは、有志が集まってバンド活動を行う。うちに溜まる負のエネルギーを自分が好きなことで発散させ、受刑者たちは健全な精神を保っているという。

音楽スタジオのカラフルな壁にはホセ・ムヒカのポスターが!!

 次に案内された3階建のレンガ造りの建物は、受刑者の〝住まい〟。廊下があって、その両側に部屋が並んでいる。部屋は、だいたい4人で共有され、テレビ、冷蔵庫、ゲーム機などを置くことが許されているという。

 雑居房に続く廊下の手前には、一応、鉄格子の扉が嵌められているが、昼間は、受刑者が自由に出入りできるよう解錠されていて、午後7時になると施錠されるのだという。

 

雑居房が連なる受刑者たちの〝住まい〟が、この建物。窃盗、誘拐、殺人などで有罪判決を受けた約600人が、4人一部屋で〝生活〟している。

雑居房に続く廊下の入り口には、〝一応〟鉄格子の扉が。昼間は所内を自由に歩き回れるため、扉の鍵は解錠されていて、〝門限〟の午後7時には施錠される。

 「こんなに自由な感じだと、脱獄とか、すぐにできそうですよね」

 

 私のアホな質問に対して、刑務官が真顔で答えてくれたところによると、6年間(軍政が終わって1985年にいったん閉鎖になっていたが2010年に男性専用の刑務所として復活してから取材時の2016年12月までの間)で脱走を試みた受刑者は、2人だという。

 これが多いのか、少ないのか、わからないが。

 

 ちなみに、これだけ自由な感じなので、軽犯罪を犯した者ばかりかと思えば、さにあらず。ここには、窃盗、誘拐、傷害、強盗、殺人など、性犯罪と麻薬密売以外の、実にさまざまな罪で有罪判決を受けた者が服役しているらしい。

 ただ、このプンタ・デ・リエレス刑務所に収監されるためには、別の刑務所で6か月の善行を続けなくてはならないそうで、つまり、ここにいる受刑者は、模範囚と言えるのだろうか。でもって、ここは優良刑務所、㊝じゃないか。

 

 なぁんてことを、刑務官の説明を聞きながら考えていたら、森さんが唐突に言った。

 

「そうそう。この刑務所にはね、〝セイリノヘヤ〟もあるんですよ」

 

 セイリノヘヤ!?

 私とI さんは顔を見合わせて、首をかしげる。

 

「森さん、セイリノヘヤって何ですか」

 

 私が尋ねると、森さんはなんだかモジモジしている。

 昔々の封建時代、月経中の女性を閉じ込める〝月経小屋〟なるものが存在したというが、まさか、そのことではないだろうに。

 

「何ですか?」

 

 もう一回、私が聞くと、森さんは次のように言った。

 

「あのですね。この刑務所では、面会に来た家族の宿泊も許可されているんです。だから、あの……奥さんとかが泊まって行っていいわけですよ。服役している人と一緒の部屋にね。だから、あの、でもって、一緒の部屋に泊まるってことはですね……」

 

「わかったぁ〜!」

 

 私とI さんは再び顔を見合わせてニヤリ。

 

 まだ物心ついていないときに両親に連れられて日本からウルグアイに渡り、日系ウルグアイ人として生きてきた森さんは、きっと、昔ながらの日本人女性の奥ゆかしさを持っていらっしゃるのだろう。だから、すごく、すごーく遠回しな(?)言い方をしてくれたのだろう。

 それにしたって、セイリノヘヤと聞いて、すぐにはピン! とは来ませんぜ。というか、説明を聞かない限り、いくら考えてもわかりませんぜ。

 

 要するに、「エッチできる部屋」ってことが言いたかったんですね、森さん。

 

 生理的欲求を満たすことができるから「セイリノヘヤ」……。遠回しどころか、なんか直接過ぎて、かえって淫靡だなぁ。

 「面会に来た奥さんと一晩一緒に過ごせる部屋」って言えばいいのに。いや、それもイヤらしいか。うーん、なんと表現すればいいのだろう……。

「朝まで一緒に過ごせる部屋」とか? 単刀直入に「夫婦の部屋」とか?

 うーん……。

 その日、一日、私の頭の中は、「セイリノヘヤ」の言い換え表現がグルグル回ることになった。

 しかし、それにしても、「セイリノヘヤ」がある刑務所って、やっぱり、かなりリベラル。

 こういう刑務所の存在を認めるなんて、すごいなぁ、ウルグアイ。

 

面会室の片隅にはベビーベッドが置かれていた。乳児を連れて面会にやって来る、受刑者の家族を慮ってのことだろう。細やかな気遣い(と思うのだけれど、日本の場合はどうなんだろう!? 普通、これくらいの配慮はどこでもされているのだろうか?)に感服。残念ながら、これは「セイリノヘヤ」ではありません……。
世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉
世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉

2015年7月に発売し、ベストセラーとなった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』に続く第2弾。
今や、その生き方や言葉は人類の財産になろうとしているウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏。今春、日本を訪れたムヒカ氏は日本でもさらに注目されましたが、本書は、ウルグアイでのムヒカ氏本人への単独取材も含め、現在の日本人の心に響く名言を集めたものです。

信念の女、ルシア・トポランスキー ホセ・ムヒカ夫人 激動の人生
信念の女、ルシア・トポランスキー ホセ・ムヒカ夫人 激動の人生

“世界でもっとも貧しい大統領"ウルグアイ第40代大統領ホセ・ムヒカ。その妻は、国会議員のルシア・トポランスキー。ムヒカに寄り添い、いつも穏やかな微笑みを浮かべる彼女だが、かつてはゲリラ戦士だった。裕福な家庭の娘として育った美少女が、なぜ革命家になり、どう今に至るのか。信念の女性ールシアの波乱万丈な人生を追った一冊!

世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉
世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉

退任したホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領が、2012年のリオ会議での感動的なスピーチを中心に「世界一貧しい大統領」として日本でもブームとなっています。本書は、冒頭にそのスピーチ全文を掲載。そして彼の他の演説やインタビューの中から名言をピックアップして、
ホセ・ムヒカ氏の人となりと思想、生き方をわかりやすく解説します。


ウルグアイはブラジルとアルゼンチンに挟まれた小国(面積は日本の約半分)。首都モンテビデオからアルゼンチンの首都ブエノスアイレスまでは飛行機で1時間弱の近さだが、両都市を挟むラ・プラタ河をフェリーで行く方法もあり、高速艇なら3時間ほどで行くことができる。