分散型の宿  (Albergo Diffuso)

 「石巻/牡鹿半島」の連載の第11回目は、石巻市が目指す観光モデルとして注目する「アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」についてのレポートだ。このまちには歴史、絶景、美食、人情……、観光客が求める様々なファクターが揃っている。しかし、ホテルや旅館をはじめ、多くの観光施設も被災している。そこで石巻ではイタリア発祥でヨーロッパ各地に広がりをみせているアルベルゴ・ディフーゾ(AD)というシステムを導入を検討しているという。日本でもすでに岡山県矢掛町、東京台東区の谷中が取り組んでいる。

 日本のアルベルゴ・ディフーゾはまだ始まったばかり。本場イタリアでの実情はどうなのかピンとこない。そこで、「TABILISTA」で『ブーツの国の街角で』を連載していただいているローマ在住の田島麻美さんに、発祥国であるイタリアの町の成功例を取材していただいた。訪れたのはアドリア海を望む小さな港町テルモリ。けっして有名な観光地ではないこの町が、なぜADを取り入れたのか? 住民はどう取り組んだのか? 成功した理由は何か? 前後編、2回に分けてお届けする。

 

 イタリアの過疎の集落を蘇らせた
「アルベルゴ・ディフーゾ」体験 (前編)

文と写真/田島麻美

 

 最近、日本でもじわじわと名前が浸透しつつあるイタリア発祥の「アルベルゴ・ディフーゾ(以下AD)」。アルベルゴはイタリア語で「宿」、ディフーゾは「分散」、ADは文字通り「分散型の宿」という意味である。1980年代、地震で崩壊した北イタリアの小さな村を復興するためのプロジェクトの一環として始まったADは、現在ではイタリア、欧州を始め世界各国で過疎化に悩む町や村の救済策として熱い視線を浴びている。では、一体ADの何がそこまで注目を集めているのか? その本質を探ってみることにした。

 

 

「持続可能な経済」をもたらすAD(Albergo Diffuso)

 名前だけは知っていたものの、アルベルゴ・ディフーゾの実態がよくわかっていなかった私は、思い切ってこのADの発案者で、アルベルゴ・ディフーゾ協会の会長であるジャンカルロ・ダッラーラ教授に教えを請うた。快く面会を受けてくださったダッラーラ教授は、開口一番、こう言った。

 「ADの本質は、”持続可能である”ということにあります。小さな田舎町の過疎化はイタリアだけに留まらず、今や世界各地で同時進行している問題ですが、これを食い止める鍵は、それぞれの土地で”持続可能な経済”を生み出すことにあるのです」

 観光マーケティングを専門とする経済学者でもあるダッラーラ教授は、「空き家が10軒ある村なら、ADを始められる」と言う。実際、イタリア各地の集落では、空き家を利用してADを始めようという動きが活発になっている。しかしながら、成功例は少ないのだそうだ。

 「 ADをB&Bや短期貸しアパートと勘違いしている人が非常に多いのです。しかし、空き家の鍵を渡すだけではADは成功しません。ただ単に、村の各地に宿を分散させるだけでは人々は集まってこないし、そこに経済を生み出すことはできません。ADを成功させるには、それを運営する人の情熱やスキルが必要不可欠です。観光業、ホテル業、ホスピタリティの最低限のスキルを身につけ、なおかつその土地を心から愛している人でなければADを成功させることはできないでしょう」

 「分散型の宿」と聞いて、単に集落に点在している空き家を借りるのかと思っていた私は、想像していたものとはかなり違うらしいADの実態にさらに興味を持った。これはやはり、実際に体験してみるのが一番だろう。そこでダッラーラ教授におすすめのADを紹介してもらうことにした。

 「テルモリ、という町があるのを知っていますか? アドリア海に突き出た小さな港町です。そこのボルゴ(古い集落)のADは素晴らしいですよ! ぜひ行って体験してみて下さい」。こうして、それまで名前すら聞いたことがなかった未知の街・テルモリを目指すことになった。

 

アルベルゴ・ディフーゾ協会の会長であり、ADの発案者である経済学者ジャンカルロ・ダッラーラ教授。