石巻・牡鹿連載の14回目は前回に引き続き、田島麻美さんによるイタリア・テルモリのアルベルゴ・ディフーゾ(以下AD)のルポをお届けする。観光復興を目指す石巻が目指す分散型ホテルの参考例だ。石巻では、「牡鹿半島の入り口であるサンファン・ヴィレッジをフロント機能にしたADを、地域の民宿やNPOと共に、食文化、農漁業体験を通じた文化交流を促進し、観光による地方創生を目指している」という。地震で崩壊した北イタリアの小さな村を復興するためのプロジェクトの一環として始まったADは、現在ではイタリア、欧州を始め世界各国で過疎化に悩む町や村の救済策として熱い視線を浴びている。イタリアで過疎化に悩む集落を蘇らせたアルベルゴ・ディフーゾとはどういうものなのか? 東日本大震災からの観光復興を目指す石巻の将来を想像しながらご一読いただきたい。

 

文と写真/田島麻美

 

 アドリア海沿岸の小さな港町テルモリ。新市街の発展により過疎化が進んでしまった隣接の集落を、15年足らずの間に立て直したアルベルゴ・ディフーゾ(AD)の実態を探るため、現地に滞在した。第二回はADの運営方法と、その真髄とも言われるホスピタリティについてご紹介しよう。

 

集落全体を「一つの宿」として捉える

 

 テルモリの古い集落(ボルゴ)で、Locanda Alfieri(ロカンダ・アルフィエーリ)を経営するマヌエラさん、Residenza Sveva(レジデンツァ・スヴェーヴァ)を経営するファブリッツィオ氏の二人が協力して始めた「アルベルゴ・ディフーゾ(AD)」は、今では集落のみならず、テルモリの街全体にも知られる存在となった。住民200人足らずの集落に、二つのADを合わせると約60室の客室があり、部屋は一年を通じて埋まっているという。小さな集落の中で二つのADはどうやって共存しているのだろうか。顧客の取り合いなどは生じないのか、と率直に尋ねてみると、ファブリッツィオ氏もマヌエラさんも異口同音に、「それはあり得ない。むしろ相乗効果で顧客が増えている」と答えた。

 

「ADが成功した背景にはインターネットの存在も大きかったと思う」とマヌエラさんは言う。

 

 「私たちはホテルの検索サイトに『テルモリ・ボルゴ(集落)のアルベルゴ・ディフーゾ』として情報を載せている。そうすることによって、宿を探している人は一軒ずつのホテルの情報ではなく、ボルゴ全体を一つの宿として検討し、私たちのどちらかに空室があればそこを予約してくれる」。こうして一度宿泊した客を個性的な客室や温かなもてなしで魅了し、リピーターを増やしていったのだそうだ。一方、ファブリッツィオ氏も、「ボルゴのADが知られるようになってから、新市街で宿を探している人を見かけると、住民の人達が『ボルゴへ行けば部屋がある』と言ってくれるようになった。駅前のホテルが満室で困っている人に、『〇〇ホテル』ではなく、『ボルゴ』というエリアを紹介してくれるようになったんだ。ボルゴに行けば僕ら二人のADがたくさん部屋を持っているから、どこかに空室があるはずだ、とね」。

 

 集落全体を一つの宿として捉えることにより、一軒の宿だけに客が集中するという事はなくなり、双方の宿に客が満ちるようになったのだそうだ。また、どちらの宿も客室はボルゴの住民達が暮らす家々の中に溶け込んでいるため、住宅街を動き回る宿泊客の存在によって通りに活気も生まれ、住民達にとっても喜ばしい結果をもたらしている。

 







ボルゴの住宅の中に溶け込んでいるADの客室。入り口にあるプレートと客室番号がそれぞれの宿の客室であることを示している。上の2点はロカンダ・アルフィエーリの客室、下3点はレジデンツァ・スヴェーヴァの客室と今年オープン予定の工事中の客室。