お気軽海外旅行ができなくなり、国内をほっつき歩く日々が続いて早2年。いまさら我が旅の傾向について気がついたのだが、私の旅へのポテンシャルは「見たことないものを見たい」という単純な欲求が大部分を占めている。なので国内旅をして「わあ、いいとこだわー」と毎回思いつつ、どこか物足りないのは心底意外なことなんてめったに起こらないからだ。
だがしかし、そんな欲を満たしてくれる場所がある。
沖縄である。

20年3月、石垣島の「なかよし食堂」で見たメニューがこれだ。


ははーん。
親子丼がこう来たか。親子丼が目玉焼きになっているわけね。
「親子丼ひとつくださいな」
「はーい」
待つこと5分ちょいでこれが来た。

目玉焼きと仲良く並んでいるのは、どう見ても食べてみても豚肉である。半熟卵と甘辛いタレが塩茹での豚にからんで美味しい。美味しいけど。
「こちらでは、親子丼ていうと、豚肉なんですか」
「そうですよー」
愛想のいいおばちゃんは即答したが、しばらくしたら戻ってきて、ちょっと恥ずかしそうに言う。
「ウチだけだと思いますけど……」
心から沖縄が好きになる瞬間である。
内地の人間にとって、国内で1、2を争う「心から意外なことが起こる」旅先はいまだに沖縄だと思う。いまでこそ浸透してきたけど、そもそも名前が分からないのが多くないか。たとえば「じゅーしぃ」と言われたらジューシーな何かが出てくると思うじゃないですか。

そういえば波照間でも心から意外なことに遭遇した。
ふーちゃんぷるを食べようと入った食堂のメニューを開くと、「軽い一品」リストに「ざるもずく」がある。好きなんだよねー、副菜で頼んじゃおっと。
いそいそ注文して出てきたのがこれである。

ざるそばの器に山盛りのもずく。そばちょこには麺つゆとうずらの卵が入っていて、確かにこれは「ざるもずく」だ。
「ごめんなさい、なんか多くて……」
運んできたお姉さんは恥ずかしそうにしている(なぜか恥ずかしそうに説明する人が多い)。しかし注文したのは私である、よーし食べるぞ。
新鮮なもずくはぷりぷりで歯応えがよく、食べ出したら止まらない。続けてやってきたふーちゃんぷる(これも大盛りだ)も野菜たっぷり、麩はふんわりでおいしくて残せない。が、「半分の量で」と頼んだご飯はお茶碗に山盛り、さらに「サービスです」と運ばれてきた小ナスの丸揚げ二つも完食してしばらく動けなくなった。高校柔道部の練習後のメシにちょうどいい量だと思う。

「おかわりもありますよー」
お姉さんが恥ずかしそうにおひつを持ってきてくれたが、すいません、もう降参です。

訪れるたびに心からびっくりすることがあって、しかも美味しい。ハプニングとハプニング飯を求めての沖縄旅、当分やめられそうにない。
【リレーエッセイ「食にまつわるハプニング」編】
次回(vol.2)はカメラマンの中田浩資さんです。