文と写真/藤井誠二 

 

3月1日[TUE]     

 日中、都内で取材をして、終わり次第、羽田空港へ。機内では資料をずっと読んでいく。着陸して空港内のコンビニで弁当を買い込んで、タクシーで自宅へ。ビール二缶と。深夜1時頃、倒れ込むように寝る。

 

3月2日[WED] 

 昼過ぎにRBCラジオのお笑いコンビのガレッジセール川田さんと、放送作家のキャンヒロユキさんがやっている五分間のラジオ番組「みーぱちパーチ」を四本分収録。川田さんは東京大阪沖縄と三拠点生活をおくっておられるという。家族は大阪におられるそうだ。相方のゴリさんは東京。琉球新報社から出したジャン松元さんとの共作『沖縄人モノガタリ』についてしゃべらせていただく。川田さんに「どんな方が印象に残ってますか」的な質問をされて、ぼくは何人か名前を挙げた。みな「無名」の人たちで、ぼくが取り上げなかったら、メディアに出ることはたぶんなかっただろう。そういう意味では交遊録的な意味もあるのだが、そういう人たち─ぼくが魅力を感じる人たち─はいわゆる「聞かれることに慣れていない」人たちばかりである。で、ぼくもその人に魅力を感じていることは間違いないのだが、どこをどう切り取ったらいいものやらとまどうことの連続だった。だから何度も会ったりして、ぼくがその人に惹かれている何かを抽出して、思考を整理してああでもないこうでもないと見合う言葉をさがした。相手からすれば「なんで自分なんかを取り上げるんですか」と思っている。なので文章が完成したときに、相手がぼくの拙い文章の中に気づかなかった「自分」を発見して喜んでくれたり、驚いてくれたときは、まあちょっと大げさだが物書き冥利に尽きた。

 帰り際に同じ建物に入っている琉球朝日放送の島袋夏子さんとばったり。ロビーの片隅でいろいろ話し込む。彼女がプロデューサーをつとめていた「十時茶まで待てない!」が二月いっぱいで終了してしまった。終了間際に出演させてもらって光栄。モノレールでジュンク堂那覇店に行って、南ふうさんの新刊『ファイナルジェネレーション 記憶と記録の復帰前』(2022)を購入。「アラコヤ」の松川英樹さんにばったり。一階のカフェでページを開き始めたら、森本店長が来てくれたのでしばしゆんたく。そのあとは久々に泊の「串豚」へ。西日本新聞の野村創記者と会うため。暖簾をくぐったら、野村さんはいなくて、「おとん」の池田哲也さんがいた。赤ウインナー炒めやオムレツ、焼きトンを喰う。池田さんはいいところで切り上げ、ぼくと野村さんは隣の居酒屋「たのしーさー」へはしごして軽く一杯だけ。愛知県岡崎市出身のマスターとも久しぶり。野村記者にタクシーで送ってもらって帰宅。なかなか寝つけず。


『沖縄ひとモノガタリ』
「琉球新報」2019年1月~2021年12月まで連載された人物ルポルタージュ「藤井誠二の沖縄ひと物語」に10人の書き下ろしとポートフォリオ写真を新たに追加し書籍化。
人々が紡ぐモノガタリは潮風が吹き、緑がそよぎ、唄も聞こえてくる。 なにやらこの人たちに会うためにページをめくっている気分になる。

ご購入はコチラから→琉球新報ストア

 

3月3日 [THU] 

 

 野菜炒めと島豆腐を食べて、「沖縄タイムス」の記事を何本か読む。学芸部の嘉数よしの記者が書いた「ゆいまーるにもジェンダー格差がある」シングルマザーの生活史を聞き取る女性研究者(2022年2月28日)という記事が印象に残った。在沖縄で、シングルマザーの生活史を調査・研究する27歳の平安名萌恵さんを紹介したものだ。

[(前略)「自由」で「奔放」に子どもを産み育てていると捉えられがちな彼女たちへのまなざしを問い直そうと始めた研究だ。インタビューを通して見えたのは、男性優位の共同体の中で後回しにされてきた女性たちの実態。「ゆいまーる(相互扶助)にもジェンダー格差がある」沖縄の姿を可視化する。
平安名さんが研究の道を志したのは、静岡文化芸術大学在学中の体験がきっかけ。知人女性に「沖縄の女性は南国気質で、性に奔放」という言葉を投げ掛けられ、驚いた。それを機に調べると、男性誌で沖縄女性が水着で描かれたり、米兵による性暴行事件が性的作品のモチーフにされたりしていた。
 沖縄のシングルマザーについても「ゆいまーるがあるからやっていける」との言説があり、実情を明らかにする必要性を実感。芸術学を専攻して同大を卒業後、立命館大大学院に進み、2018年から調査・研究を始めた。
 離別や非婚でシングルマザーになった20~80代の45人の声に耳を傾けた。見えてきたのは、一人で踏ん張って子どもを育てる母親たちの過酷な暮らしだ。
 ある女性は、中絶を迫ったパートナーとの関係を絶って出産。親族からはサポートを受けられず、生活保護の申請が必要なほど困窮した際も、家族は女性より無職の叔父の居住環境を整えたという。10代で出産した別の女性の家族は、同時期に誕生した男兄弟の子を優遇した。
 平安名さんは「生み育てもそうだが、進学や就職も『好きなように決めたらいい』『自分たちは何もできない』『迷惑は掛けるな』と突き放されている。共同体の中にいながら放置されているのに、親のケアなどの役割は求められる」と話す。
 自立的に生きなくてはならない女性の多くは、他者への信頼も失っている。その背景には、男系の血族が「家」を継ぐ沖縄独特の門中制度がある上、戦後の混乱と貧困も影響している、と平安名さんは分析する。「男性優位の共同体で女性であるが故に、周囲を頼ることができない人たちの姿を説明していかなければならない。社会の理不尽なまなざしに反論していきたい」と決意する。
 沖縄の母子世帯の出現率は全国平均の約2倍。子どもの貧困率はひとり親世帯では約半数に達する。平安名さんは、困難な状況に置かれた女性たちが、自分自身と社会を理解するための「説明書のような役割」を果たすことも目標に掲げる。「話してもしょうがない」「どうにもならない」と考える女性たちが、自らの研究を通して「少しでも生きづらさが晴れたらうれしい」とほほ笑む。(後略)]

 長々と引用させていただいたが、基本的に沖縄は「男性優位社会」で「長男」を重んじるし、「血」にこだわる。女性は「低く」見られる傾向がある。「ゆいまーる」という言葉の、ときとして空疎性をぼくは書いてきたが、こうした指摘はもっとされるべきだと思う。古くなり過ぎた伝統や文化、社会構造は、問題点を自覚しながら見直すべきなのだと思う。ただ単に、伝統は大事にしましょう、というのは思考停止だと思う。

 5月と7月に沖縄関係の単行本が出る。5月は初稿を版元へ返したので、後者のほうの原稿にとりかかる。

 夕刻を過ぎて、歩いて牧志の市場通りへの千ベロ寿司「米仙」へ。アーケード街なので「屋上」はある。店は繁盛してテーブル席をどんどん拡大していて、ほとんど路上で飲むという雰囲気になっている。写真家の岡本尚文さんが先に着いていて二人で飲み始めた。(岡本さんは酒を飲まない)飲み始めたら、ぼくにむかってカウンターにいた男性が「先生!」と声をかけてきた。聞けば、この日記の読者のかたで、ここに来たらぼくに会えると思って足を運んだら、いきなり初日に会えました、とか。そのかたが帰り際にいっしょに写真を撮ってくださいと言われたので、赤ら顔の間抜け面でスマホカメラにおさまる。普久原朝充さんと森本浩平さんもやってきて、バカ話をする。場所がただでさえ目立つので、何人もの地元の知人に遭遇。壺屋焼き窯元の「育陶園」七代目・高江州尚平さん兄弟とは初対面。森本さんの紹介なのだが、巨大書店の店長だけあって、やっぱ顔が広い。リブロリウボウブックセンターの小熊基郎さんからは沖縄復帰50周年の全店選書フェアに参加してほしいと頼まれ、臆面もなく自著を選ばさせていただくことにする。帰りは岡本さんに送ってもらい、ひんやりした床が気持ちよく、そのまま床で寝入ってしまい、朝方に覚醒。若干二日酔いでもあったので、二度寝を決め込む。

 

3月4日 [FRI]  

 目が覚めたのは昼過ぎ。今日はジュンク堂書店で谷口真由美さんのトークがあるのだが、〆切を忘れていた原稿を書く。ずっと映画「グラン・ブルー」のサントラをかけていた。夜になって、谷口さんらが飲んでいる酒席からお誘いの連絡があったが、原稿にメドが立たないので、せっかくのお誘いに後ろ髪を引かれる思いを感じつつ、御遠慮させていただく。