文/光瀬憲子

 

 私の父は世界を飛び回るビジネスマンだったが、とりわけ台湾には足繁く通い、一時期は事務所を構えるほどだった。そんな父は大の卵好きで、なかでも特に好きな目玉焼きは焼き方にこだわりを持っていた。半熟が嫌いなので黄身にも白身にもしっかりと火を通す。

 英語では片面焼きの目玉焼きのことを「サニー・サイド・アップ」という。直訳すると「おひさまが上」という意味だ。これだと黄身が半熟なので、父は英語圏で目玉焼きを注文するときには堂々と「クラウディ(曇り)」と言っていた。片面焼きが晴れなら、両面焼きは曇りだろうという理論から編み出した自己流英語だ。両面焼きは、本当は「オーバー・イージー」という言い方をするので、もちろん「曇り空」では伝わらないが、いつも店員さんの笑いを誘っていた。

 台湾の目玉焼きはそんな父の好みに合う両面焼きがスタンダードだ。食堂の火力のせいなのか、焼き方のせいなのか、外側がパリッとしていて、黄身は半分かたまり、でも箸でつついた時にほどよいとろみの黄身が流れ出すという絶妙なバランスを保っている。半熟嫌いの父は台湾の食堂で「もっと焼いて」と頼んでいたようだが、私は白身パリパリ、黄身とろとろの目玉焼きが好きだ。卵の白身は焦げ目がつくほどよく焼くと、ベーコンのような香ばしさが生まれる。だから、肉を使っていなくても肉を食べたような満足感を得られるのだ。

台湾でよく目にする目玉焼き(両面焼き)