旅に出るきっかけは実にさまざまである。日頃から旅をする機会が多い私も、その土地へ行く動機・目的は毎回少しずつ違っている。しかしながら、どんな旅にも共通していることが一つだけある。仕事でもプライベートでも、旅に出る時はいつでも「その土地に呼ばれている」と私は感じる。呼ばれたのならどこへでも、とりあえず行ってみるというのが私のモットーで、今こうしてローマで暮しているのもそのモットーがあったお陰である。
「2月のセッティマーナ・ビアンカ(ウインター・バカンス)に一緒にトランシルヴァニアに来ない?」とルーマニア人の知人夫妻に誘われた時も、「あ、呼ばれているな」と思ったので、そこがどんな土地なのか知りもしないのに二つ返事で「行きます!」と答えた。ちなみに私がトランシルヴァニアについて知っていたのは「ドラキュラ」だけである。いきなり降って湧いたように実現したトランシルヴァニアへの旅は、未知の体験に満ちたものとなった。ローマから車で1800km、4つの国を駆け抜けた旅の顛末をご紹介しよう。

 

3つの国境を跨いで19時間のドライブ

   朝7時半、ローマの北郊外にある鉄道駅でルーマニア人の知人夫妻と待ち合わせをしていた。土曜の早朝、ガラ空きのバールでゆっくりカフェを飲みながら、道中に想いを馳せる。これからイタリアを北上し、トリエステからスロヴェニア、ハンガリーの国境を越えてルーマニアの中心部にあるトランシルヴァニアまで、19時間のドライブ旅が始まる。

 そもそもどうして私がトランシルヴァニアに行くことになったのかというと、相棒の元同僚であるルーマニア人夫妻の愛息が日本語を勉強したい、と私にコンタクトを取ってきたのが始まりだった。高校生になったばかりの彼にスカイプで日本語を教えるうち、私達は仲良くなった。大事な一人息子をルーマニアの祖父母に預け、家族への仕送りを稼ぐためにイタリアに出稼ぎに来ている夫妻はとても努力家で誠実な人柄で、「私達の故郷を見せたいから、ぜひとも一緒にトランシルヴァニアに来て欲しい」と誘われて、私と相棒は喜んで同行することにしたのだった。

 トランシルヴァニアと一言で言っても、地図を見るととてつもなく広い。果たしてどの街が彼らの故郷なのか? 彼らの話では、実家は農家で街ではなく郊外に家があるとのことだった。最寄りの街の名前は「トゥルナヴェニ」。聞いたこともない町の名前で、ネットで検索しても情報はほとんど出てこない。観光地でないことだけは確かだった。あれこれ考えるのも無意味なので、とにかく行って見てみようと頭を空っぽにして出かけることにした。

 「さぁ、出発だ! これから19時間、ひたすら走るぞ!」。元気いっぱいに宣言したご主人は、その言葉通り豪快にアクセルを踏んだ。ローマからトリエステまで7時間半、1度カフェ休憩をした以外はぶっ通しで高速を走り続け、いよいよスロヴェニアとの国境が迫ってきた。この辺りでガソリンを補給した方が良いのでは?と私が言うと、「いや、ガソリンはいつもスロヴェニア国内で補給するんだ。国境を越えるとすぐ、ガソリンスタンドがある。たった15分の違いだけど、ガソリンの値段は大違いなのさ」とのことだった。スロヴェニアのガソリンスタンドに着くと、リッターあたりの値段がイタリアよりも30セント程安い。往復で3600kmも走るとなるとガソリンの料金は少しでも安い方が確かに良いだろう。スロヴェニアのガソリンスタンドではスロヴェニア国内の高速料金も払い、支払証明書のシールをフロントガラスに貼った。スタンド脇のショップを覗くと、コルネットやパニーノなどお馴染みのイタリアの軽食と一緒に、スロヴェニア料理のスープなども売られていた。品物の値段はイタリアと大差なく、まだ「外国に来た」という印象は薄い。

 





イタリア・スロヴェニア国境。特に検問などはなくそのまま通過(上)。スロヴェニアに入るといきなり標識が見慣れないものになる(中)。スロヴェニア国内の高速料金の支払い証明書。1週間有効、どこでも走れて15€。これを貼っていないと高額な罰金を取られる(下)



スロヴェニアのドライブイン・メニュー。まだイタリア語の表示があり、軽食メニュー・料金もイタリア国内とほとんど変わらない(上)。スロヴェニア料理のスタンドもある。グラシュのスープはとても美味しかった(下)