人生初のルーマニア旅行から帰国した直後、新型コロナウイルスの感染爆発によってイタリアが全土封鎖という前代未聞の事態に陥ってしまった。ローマの自宅に戻って二日後、私たちが滞在していた街がロックダウンに入ったという知らせを聞いて冷や汗が出たことを今も鮮明に覚えている。旅の行程がほんのちょっとでもずれていたら、あのままトランシルヴァニアの片隅で数ヶ月間の隔離生活を送る羽目になっていたかもしれない。そう考えると本当にラッキーだったとしか言いようがない。今ではまるで前世の出来事のように感じられるトランシルヴァニア滞在。まだ世界がコロナの脅威に直面する前、気楽なツーリストとして楽しく過ごした冬の1週間の記憶をたどりながら、中断していたトランシルヴァニア紀行の続きをお伝えしていきたい。今回は、不思議な魅力に満ちたトランシルヴァニア屈指の古都・シビウの歴史地区をご紹介しよう。

 

ドイツ人入植者が設立したギルドの街

 トランシルヴァニア地方南部に位置するシビウは、かつてローマ人が住んでいた場所に12世紀に入植してきたザクセン人(=ドイツ人)によって建設された街。ルーマニアの他の街と異なり、中世ドイツの街を思わせる独特の異国情緒に満ちている。おとぎ話に出てくるようなトンガリ屋根の教会や赤煉瓦の屋根が連なる可愛らしい街は、トランシルヴァニアきっての観光地として欧州では広く知られているのだが、アジアやアメリカからの観光客はまだ少ない。鉄道、バスで各地からアクセスできる他、ドイツやオーストリアからの便が発着する空港もある。駅前の広場から旧市街の中心ピアッツァ・マーレまでは歩いて10分ほどで到着。この広場を拠点に歩けば、1日で主要な観光スポットを楽に網羅できる。

 中世時代から街の中心であった歴史地区の大広場「ピアッツァ・マーレ」は、15世紀から19世紀にかけて建てられたドイツ風の建築物に取り囲まれている。広場に立ってぐるりと見回すと、まるで中世ドイツの街に来たような感覚を覚えるはずだ。欧州のほぼ中央に位置するシビウの街は、古くからヨーロッパとバルカン半島を行き来する重要な貿易拠点であった。ドイツ人入植者はこの地の利を活かし、商業都市としてシビウの街を繁栄させてきた。14世紀には19の異なる職人の組合「ギルド」が分担して街の統治を行うようになり、その後16世紀の最盛期にはウィーンにも匹敵する都市として知られるようになったという。ギルドによって繁栄を築いたシビウの街は、中世以降、自国ルーマニアの他の街や欧州各国、オスマン帝国など他国の羨望の的となり、常に侵略の危険にさらされていた。そのため、ギルドは統治だけでなく、街の防衛も分担して請け負った。城壁沿いに今も残る見張り塔には、「大工の塔」、「陶芸職人の塔」、「なめし皮職人の塔」など、それぞれの区画の防衛を担当した職人組合の名前が付けられている。

 





シビウ観光の拠点となるピアッツァ・マーレ(大広場)。聖三位教会や市参議堂など、15〜19世紀の美しい建築群が集まっている(上)。シビウ市街の地図。歴史地区はバスターミナル・鉄道駅から徒歩10分ほど(中)。左手にはルーマニア最古の博物館・ブルケンタール博物館、右手にはシビウ市庁舎の建物が立つ。ツーリストインフォメーションは市庁舎1階にある(下)。



大広場の入り口の通り沿いにスターバックスを発見!ルーマニア限定の可愛いエスプレッソカップを即買いしてしまった(上)。広場の四方に伸びた大通りはブティックやカフェ、レストランが軒を連ねるショッピング・ストリートになっている(下)