シチリア島での結婚式に呼ばれ、ローマから友人カップルと四人で寝台車に乗り込んだ。イタリアで寝台車に乗るのは初めてである。テルミニ駅を夜11時に出発し、翌朝7時半ごろメッシーナに着いた。狭いコンパートメントは予想よりはずっと快適だった。二段ベッドのリネン類はきちんと清潔で、アイマスクや耳栓、朝食にはフルーツジュースとスナックのサービスまで付いていた。とはいえ、ガタガタ揺れる列車内で熟睡するのはやはり難しかった。眠い目をこすりながら駅に降り立ち、スーツケースを下ろす。同伴した三人の顔を見ると、皆同様に疲れているようだった。結婚式は明日の朝ミラッツォで行われるので、メッシーナで各駅電車に乗り換え、まずはミラッツォまで移動。その後、ずっと憧れていたエオリエ諸島のどこかの島へ行ってみよう、ということで話は決まった。 

 

駅から港までの移動で早くも問題発生!

 ミラッツォの駅前は、駐車場以外は何もない野っ原だった。イタリア人が三人も同伴しているのだから彼らについていけばいいとタカをくくっていた私は、ここへ来て一気に不安が湧き上がってくるのを感じた。
「ねぇ、あなたたち、一度来たことがあるって言ってたよね? タクシー乗り場とか、バス乗り場はどこにあるの? 港までは歩いて行けるの??」矢継ぎ早に質問した私に、相棒は「まぁまぁ、落ち着けよ」と手で合図を送る。相棒の親友は得意げにスマホを取り出すと、「俺たちにはグーグルマップがある。アサミ、安心しろ!」とマップを調べ始め、「お、意外と近いじゃないか。歩いて行けるよ」と言った。その時、我々四人をさっきから観察していたシチリア人の男が、「いや、徒歩じゃ港に行けないぞ」と言いながら近寄って来た。話をすると、どうやら地元の「白タク」の運ちゃんらしい。怪しい、と思った我々は「港まで15ユーロで行ってやる」という運ちゃんの申し出を「高い」と言って断った。すると男は、「ヘっ、よそもんが知ったような口聞いて」と捨て台詞を吐き、「せいぜい頑張るんだな」と言いながら車に戻って行った。
 「ちょっと、なんなのよアイツ!」寝不足と空腹でイライラしていた私は爆発寸前だったが、後の三人は呑気に、「まぁまぁ。ここはシチリアだし、相手はマフィアかもしれないからおとなしく離れた方が得策さ」とスーツケースを引きずりながら歩き出した。
 道はでこぼこ、歩道は狭く、うっかりすると猛スピードの車に引かれそうになる。スーツケースは持ち上げて歩かなければならず、数十メートルも行かないうちに息が切れ出した。「やっぱり白タクの方が良かったかも」と誰かが呟いたその時、タクシーらしき車がスッと寄って来た。これもやはりメーターをつけていない白タク。
「港まで四人で10ユーロでどお?」というので、今度は妥協して乗ることにした。運ちゃんは気のいい若者で安心したが、それにしても白タク以外は走ってないのか?
「いや、バスもあるしタクシーもあるけど、今はシーズンオフだからね。夏のバカンスシーズンならもうちょっと便利だよ」とのことだった。

 

FSミラッツォ駅。夏季はここと港を往復する市バスも出ているらしいが、とにかく時間が読めない。エオリエ諸島へのフェリーはメッシーナからも発着しているので時期と行程をよく調べる必要あり。

絶品グラニータ&ブリオッシュで気分一新

 到着直後、それも朝っぱらから嫌な思いはしたものの、無事に港へ到着。広場にある旅行代理店がスーツケースを預かってくれるというので荷物を置いてフェリーの切符を購入すると、気分直しにバールでシチリアならではの朝食を楽しむことにした。
 シチリア島の朝食の定番といえば、「グラニータとブリオッシュ」である。初めてシチリア島を訪れた時、スムージーのような冷たい飲み物に大きな焼きたてのブリオッシュをつけて食べている人々を見てびっくりしたのだが、一度試しただけで病みつきになった。グラニータはカフェ、アーモンド、レモンがスタンダードだが、それ以外にもシチリア特産の「ジェルシー」と呼ばれるクワの実の一種であるフルーツや、オレンジ、ピスタチオなどいろいろな味がある。新鮮な素材を使った冷たい飲み物は、灼熱のシチリアの太陽の下では格別に美味しい。
 真夏にはまだ間があるものの、やはりグラニータは食べたいということで、私はエスプレッソのグラニータとブリオッシュを注文した。顔くらいの大きさがある焼きたてふわふわのブリオッシュをひとちぎりし、甘くて冷たいカフェのグラニータをすくって口に放り込む。ああ〜、幸せ! 口の中で冷たくとろけるほろ苦いカフェと、焼きたてふわふわのブリオッシュの食感がたまらない。不快な白タク事件も一気に吹き飛び、ようやくリラックスしたシチリアの休日がスタートした。

 

カフェのグラニータと焼きたてブリオッシュ。地元の人たちはグラニータに生クリームもトッピングする。絶対に見逃せないシチリアの朝食である。

世界遺産の自然美と楽しい迷路歩き

 ミラッツォの港からフェリーに乗って約1時間。エオリエ諸島最大の島にしてイタリア初のユネスコ自然遺産に指定されたリーパリ島へ到着。フェリーの上からの眺めも素晴らしかったが、島の城塞から見下ろす海は、エメラルドグリーンとコバルトブルーのグラデーションがどこまでも広がり、息を呑むような美しさである。この景色を眺めるためなら、長く急な上り坂も苦にならないだろう。

 

港からリーパリ城塞地区へ。城塞の回廊の窓から眺めたティレニア海のグラデーションは息を飲む美しさ。城壁の上まで登るとさらなる絶景が待っている。

 リーパリ、ヴルカーノ、ストロンボリなど主に7つの島で構成されているエオリエ諸島は、現在も火山活動が続いているストロンボリ島に代表されるように火山性の諸島である。ガイドブックを開くと、リーパリ島はサリーナ島を除くエオリエ諸島の行政管轄地で、街は古代ギリシャ人の植民都市であったと書いてある。夏のバカンスシーズンを除けば漁師しかいないのどかな島だと思っていたが、その歴史は予想以上に古く、島の名前もホメロスの叙事詩『オデッィセイア』の登場人物に由来すると知って驚いた。
 島内は急な上り坂と下り坂が迷路のように入り組んでいて、地図を持たずに歩き回っていると、坂の先の角を一つ曲がるたびに思ってもいなかった風景に出くわす。とある民家の玄関横では、摩訶不思議な『魔法の石の大鼻』という彫刻(?)に出会った。注意書きには、「まずお金を投げ込む。それからこの鼻に触れば、大きな幸運をあなたに授けよう」と書いてある。「まずお金を入れろ」という書き出しに私たちは大笑い。いかにもシチリアらしい。誰が作ったのかは知らないが、とりあえずお金を払って幸運を授けてもらえるよう鼻に触って町歩きを続ける。
   

 

お金さえ払えば大きな幸運を授けてくれるという、寛大な「魔法の大鼻」