春分が過ぎ、春もいよいよ本番。と思っていたら、なんと早くも2019年に突入しようとしている街があると聞いて驚いた。斜塔で有名なピサの街には独自のカレンダーがあり、ピサの住民にとって新年は3月25日から始まるのだそうだ。単なる言い伝えのようなものだろう、と思いつつ調べてみると、大晦日同様に前日からカウントダウンの様々なイベントがあり、元日には旧市街の広場で新年を祝う式典まで行われるらしい。
周りのイタリア人に尋ねてみたが、皆一様に「ピサがもう2019年だって?そんな話は聞いたことがない」という。しかし、ピサ市のサイトにはデカデカと『ピサの新年2019年を祝う祭典スケジュール』と載っている。真相を確かめるべく、ピサまで足を運んだ。

*この記事はwebマガジン「TABILISTA」の「ブーツの国の街角で」連載内で2018年4月に公開されたものです。

 

古代ローマ時代から続いていた3月年明けカレンダー

 「3月が一年の最初の月だった」という話は、以前聞いたことがある。古代ローマで最初に採用された暦では、草木が芽吹き大地に新たな命の種を植え付ける3月が一年の始まりとされていた。現在でもイタリア語で9月はSettembre(セッテンブレ)、10月はOttobre(オットーブレ)と呼ばれるが、セッテンブレとは「7番目の月」、オットーブレは「8番目の月」という意味で、いずれも「3月から数えて7番目、8番目」ということになる。

 ピサのインフォメーションセンターで得た情報によると、1749年に「グレゴリオ暦を正式なカレンダーとする」という神聖ローマ皇帝フランツ1世のお触れが出るまで、ピサとその周辺のトスカーナ地方では、聖母マリアの受胎告知の日である3月25日が新年の始まりの日とされていたそうだ。1980年代半ばに、自然のサイクルに沿った昔ながらのピサのカレンダーを復活させようという運動が市民の間で起こり、以来、毎年3月25日に『カポダンノ・ピサーノ(ピサの新年)』の行事が行われるようになった。

 ピサの大聖堂内部には、窓から差し込む陽射しを利用した日時計がある。1926年にジョヴァンニ・ピサーノが再建した説教壇の隣の柱の上に大理石で作られた卵形の棚があり、3月25日の正午きっかりにこの卵に太陽の光が当たった瞬間、ピサ市長が「新年の幕開け」を宣言することになっている。

 



ピサの大聖堂と斜塔。モニュメントへの入場にはチケットが必要。大聖堂だけであれば無料だが、時間制になっているのでチケット売り場で見学チケットを受け取る必要がある(上)。今年の3月25日は復活祭の一週間前の日曜日。「枝の主日」と「聖母マリアの受胎告知」の祝日が重なり、大聖堂のミサに参加する人が大勢いた(下)。