美食の都パルマに滞在中、近郊の村々に世界でも恐らく類をみない『食の博物館』なるものが8つも点在していることを知った。過去に仕事でパルマを訪れた際、パルミジャーノ・チーズやプロシュットの工房を見学したことはあったが、博物館はまだ見たことがない。ツーリスト・オフィスで尋ねてみると、「フード・ヴァレー(食の渓谷)と呼ばれるパルマ周辺のエリアに、パルミジャーノ・レッジャーノ博物館、パスタ博物館、トマト博物館、ワイン博物館、サラーメ・ディ・フェリーノ博物館、プロシュット・ディ・パルマ博物館、クラテッロ・ディ・ズィベッロ博物館、フンゴ・ポルチーノ・ディ・ボルゴターロ博物館の8つが点在しています」と教えてくれた。街の雑踏を逃れ、緑豊かな渓谷をドライブしながら最高級の食材を訪ねて回るのはどんなに楽しいだろう。そんな妄想を抱くのは私だけではないらしく、このフード・ヴァレーを巡る「フード・ツーリズム」という新しい旅のスタイルが、近年人気を博しているのだそうだ。パルマから足を伸ばし、半日のフード・ツーリズムを体験してみることにした。

 

 

ハリウッド映画の舞台にもなった幻想的な城

 若草の香り漂うハイキング日和の一日、パルマから市バスで郊外へ足を伸ばした。前日、ツーリスト・オフィスのお姉さんに「パルマからバスで日帰りで行ける食の博物館はある?」と聞いたところ、「バスで1時間弱で行けるランギラーノの村にプロシュット・ディ・パルマ博物館があるわ。その1つ手前の停留所トッレキアーラには素晴らしいお城もあるから、お城見学とプロシュット博物館を組み合わせるとより一層充実した1日になりますよ」と提案された。『食の博物館』のマップを見ると、いずれも郊外の小さな村に点在していて、車を運転しない私には全て回るのは不可能。パルマに一番近いのはパルミジャーノ・レッジャーノ博物館なのだが、まだ本格的なシーズンが始まっていない季節、バスの運行も不定期でアクセスが不便だったのでこれも断念。やはりお姉さんの提案どおり、お城とプロシュット博物館を見学することに決めた。
FSパルマ駅前のバス停からランギラーノ行きの市バスに乗って約40分。緑の野原の真ん中にあるトッレキアーラの停留所に着いた。ポカポカの陽光を浴びながら、丘の上の城を目指して朝のウォーキングをスタートする。急な坂道を登りきったところにボルゴ(集落)の入り口があった。お城の他は土産物屋やレストランが数軒あるだけの小さな村は、5分も歩けば一周できてしまう。まだ観光シーズンが始まっていない時期、どこも閉店していたのでまっすぐお城へ向かった。

 15世紀にこの地の貴族であったピエール・マリア・デ・ロッシ伯爵によって建てられたトッレキアーラ城は、エミリア・ロマーニャ州で最も保存状態が良く、美しい城として名高い。周囲のロケーションも素晴らしく、穏やかな自然の中にどこか叙情的な雰囲気をたたえて立つこの城は、80年代にルトガー・ハウアーとミシェル・ファイファー主演で制作されたハリウッド映画『レディホーク』の舞台にもなったそうだ。確かに、優雅で洗練された佇まいの城には、壮大なファンタジー・ラブストーリーにふさわしい現実離れした雰囲気が漂っている。

 







トッレキアーラのバス停からアスファルトの坂道を登ること10分足らずでボルゴの入り口に着いた(上)。城壁の門をくぐってすぐ左手にトッレキアーラ城の入り口がある(中上)。入場料を払って中へ。中世とルネサンスの過渡期であった時代の建築らしく、双方の特徴を併せ持っている美しい城だ(中下)。城の入り口前のテラスからは、雪をいただく山々と葡萄畑、緑の丘陵地隊の素晴らしいパノラマが望める(下)。