観光名所がひしめくローマの中心地に、ツーリストにはあまり知られていない6体の彫像がひっそりと立っているのをご存知だろうか? ローマ人の間ではとても有名なこの6体の彫像は「Statue Parlanti(スタートゥエ・パランティ=しゃべる彫像)」と呼ばれ、16世紀からずっとローマ庶民のアイドル的存在として親しまれている。
「しゃべる像」と言っても、“実際に彫像がしゃべった”というようなホラーめいた伝説があるわけではない。貴族やローマ法王など強力な支配者たちに直接刃向かうことができなかった時代、庶民達は匿名で強烈な風刺を効かせた詩を書いて街の中心部に置かれたこの6つの像に貼り付け、支配者達の目に留まるように仕向けたという、いわば江戸時代の目安箱のような存在なのだ。彫像達はもはや原型を留めないほどボロボロになっているものもあるが、いくつかの像の近くには今でも独特のローマ弁で書かれた風刺メッセージを見ることができる。ローマ庶民に代わって権力者に抗議してくれた彫像達を、付近の有名スポットとともにご紹介しよう。

 

カンピドーリオからヴェネツィア広場へ

 ローマ市庁舎があるカンピドーリオの丘は、ミケランジェロが設計した広場やローマのシンボルである狼と双子の銅像、市庁舎裏手に広がるフォロ・ロマーノとコロッセオなど、ローマ観光の中心とも言える場所。そのカンピドーリオにあるカピトリーニ博物館の中庭にどんと横たわっているのが、6つの彫像の中でも一番大きな「Marforio(マルフォーリオ)」の像。古代ローマ時代の彫刻で、もともとはフォロ・ロマーノにある噴水の中に横たわっていた彫像だそうだ。16世紀後半にフォロから旧市街の中心地に運び出され、1592年にはカンピドーリオ広場の噴水の一部となった。現在では博物館内に置かれているが、広場に置かれていた時代には、この彫像に政府に対する抗議文がベタベタと貼り付けられていたらしい。博物館で管理されているため6つの彫像の中では保存状態が最も良い彫像である。カンピドーリオ広場からちらっとだけ姿が見えるが、じっくり鑑賞したければ入場券を買って博物館に入れば間近に見られる。

 





ミケランジェロが設計したルネサンス建築の傑作・カンピドーリオ広場(上)。狼の乳を飲む双子の像はローマのシンボル。この先にはフォロ・ロマーノを一望できる展望スポットもある(中)。広場から、ちらっと覗き見できる巨大なマルフォーリオ像(下)

 カンピドーリオの階段を降りてヴェネツィア広場を右手に見ながら横切ると、サン・マルコ広場に着く。この広場に面したヴェネツィア宮殿の角に鎮座しているのが「Madama Lucrezia(マダーマ・ルクレツィア)」像だ。この像の由来ははっきりとわかってはいないが、胸元にあるドレスの特徴的な結び目から、古代ローマ時代の女神イシスかあるいはその巫女の彫像ではないかと言われている。6つの彫像の中では唯一の女性像で、胸像ながら高さは3mもある。15世紀のナポリ王アルフォンソ5世の愛人であったルクレツィアが、王の死後この辺りに移り住んだことから「マダム・ルクレツィア」の名がついた。その後1799年、ローマ共和国の時代にローマ市民が暴動を起こした際、地面にうつ伏せに倒れたこの彫像の背中に「私はもう見えません!」という張り紙がつけられたというエピソードが残っている。

 



ローマの市内観光では何度もここを通過する旧市街の中心ヴェネツィア広場(上)。大貴族の館であったヴェネツィア宮殿とサン・マルコ大聖堂の間の角に鎮座する「マダーマ・ルクレツィア」像(下)