外へ出かけるのが楽しい季節に長い休暇が取れることになった。せっかくのチャンスを逃すまいと、私も相棒と一緒に小旅行に出かけることにした。行き先は北イタリア世界遺産ドロミーティ山塊の玄関口であるボルツァーノ。オーストリアとの国境に近いトレンティーノ=アルト・アディジェ州にあるボルツァーノは、1918年まではオーストリア領だった。そのため、今でもドイツ語とイタリア語が公用語とされていて、ドイツ・オーストリアの文化が色濃く残っている。背後に3千メートル級の山々がそびえる美しい北イタリアの街は、生活習慣も食文化も日頃慣れ親しんだイタリアのそれとは大きく異なり、国内でありながら海外旅行をしているような気分が味わえる。異国情緒たっぷりのボルツァーノの街歩きの醍醐味をご紹介しよう。

 

チロル風の建築が並ぶ可愛らしい旧市街

    ローマから高速鉄道で4時間半、ボルツァーノの駅に着いた途端に目にしたのがBolzano/Bozenという二か国語表記の標識。アルト・ディジェ自治県の県都であるボルツァーノは、イタリア語・ドイツ語・英語の三ヶ国語が公用語として日常的に使われている。言語だけでなく、ここが「イタリアであってイタリアではない」街だということは、旧市街を歩き始めればすぐに実感できる。
   毎年12月に盛大な「クリスマス・マーケット」が開かれることでも有名な旧市街の中心ヴァルテル広場に着くと、どこからか軽やかな民族音楽が聞こえてきた。目をこらすと、広場の真ん中に大小様々なカウベルとハーモニカ、弦楽器などを並べ、チロルの民族衣装に身を包んだ男性が素朴な音楽を奏でているのが見えた。明るい黄色やオレンジ、淡いブルーで彩られた建物、一角にそびえるドゥオーモの尖塔など、広場の周囲をぐるっと見渡しただけで、もうオーストリアかドイツの街に来たような錯覚に陥る。広場から四方に伸びた小道を、あてもなく歩いてみることにした。どの通りも綺麗に清掃され、整然と並んだ建物のバルコニーには色とりどりの花が飾られている。子どもの頃に読んだ外国の童話の挿絵にあるようなとんがり屋根のカラフルな建物、店の軒先に掛けられた装飾看板、雨を避けられるポルティコなど、チロル風の可愛らしい街並みに思わず心が浮き立ち、足取りも軽やかになってきた。

 

ヴァルテル広場から見た13世紀の華麗なドゥオーモの勇姿。ロマネスク・ゴシック様式の建築で、緑や黒、黄色の幾何学的な模様の屋根はイタリアの建築とは趣が異なる(上)。広場ではチロルの民族音楽のライヴ演奏も行われていた(中上)。おとぎ話の挿絵にあるような可愛らしいチロル風の建物が並ぶ旧市街(中下)。雨や雪、暑い陽射しがしのげるポルティコ(柱廊)がある通り(下)。