毎年イースターから60日以後の木曜日に祝われるキリスト教の「聖体祭(ラテン語でCorpus Domini)」は、復活祭から地上に留まっていたキリストが天国へ帰って行ったとされる日。本来は「三位一体の主日」後の木曜日が祝日だが、現在では多くの国でその週の日曜日に祝われている。カトリックの重要な行事であるこの聖体祭は数日間かけて祝われるのだが、儀式のクライマックスである「聖体行列」に欠かせないのが「インフィオラータ」と呼ばれる花の絨毯だ。
聖体行列が通る道に花びらやスパイス、ハーブなどを敷き詰め、その上を十字架や聖職者、信者たちが行進する「インフィオラータ」。イタリア語で「花を敷き詰めた」という意味のインフィオラータは、聖体が通る道を清めることを目的に17世紀前半にローマで始まったのが起源とされている。現在では世界各地で見られるようになったイベントだが、この祭が宗教行事というよりも「花の祭典」として認識されるようになったのは、ローマ郊外の街ジェンツァーノのインフィオラータが世界中に知られるようになってからだろう。初夏の一日、〝イタリア最古〟と言われる花の祭典を体験しに、ジェンツァーノまで足を伸ばしてみることにした。

 

1778年から続く伝統の花祭り

   イースターと同じく移動祝祭日である「聖体の祝日」は毎年カレンダーによって変わるが、今年は6月22〜24日の三日間に渡って聖体祭が行われた。ローマの南東約30km、風光明媚な丘陵地帯カステッリ・ロマーニの街の一つであるジェンツァーノ・ディ・ローマで花びらを使った美しい絵画が道を埋め尽くすインフィオラータが始まったのは1778年のこと。極彩色の緻密で巨大な花の絵の美しさはたちまち評判となり、以来、毎年の聖体祭には世界中から観光客が訪れるようになった。インフィオラータの期間は小さな街がごった返すと聞いていたので、出来るだけ混雑を避けようと最終日である月曜日の早朝に行くことにした。

 朝8時半、ジェンツァーノに着くと、真っ直ぐにインフィオラータの会場であるベラルディ通りを目指した。大通りを進んで行くと、広場の先の坂道一面が極彩色で埋め尽くされているのが見え、思わず「わー!」と歓声が上がった。説明書きを読むと、この道全体約2000平方メートルの敷地に13枚の絵が展示されていて、それぞれの絵は幅7m、長さ14mもの大きさがあり、材料には35万本もの花や植物が使われているのだそうだ。これまで写真でしか見たことがなかったインフィオラータだったが、実際に間近で見て驚いたのがその豊潤な香り。色も種類も様々な花びらに加え、ハーブやスパイスなど大地の恵みをふんだんに使用して描かれた絵は、側を通るたびになんとも言えない良い香りで見学者を包み込んでくれる。一枚の絵は何しろ大きく、全体像を鑑賞するにはヘリコプターで上空から見るしかないのだが、そもそもこの花の絵は鑑賞することが目的だったわけではなく、聖体が通る道を花々の香りで清めるために作られたのだ。爽やかな芳香に満たされた通りを歩いてみると、その意味がとてもよくわかる。

 







ジェンツァーノの街の入り口には『インフィオラータの街・ジェンツァーノ』と書かれた看板が誇らしげに立っている(上)。今年でなんと241回目を数えるインフィオラータの会場Via Belardi/ベラルディ通り(中上)。一面を埋め尽くす花の絵は幅7m、長さ14m。昨年まではもう少し小さめで15枚あったが、今年はサイズが大きくなり13枚の絵が展示された(中下)。生ものなので天気によってコンディションが変わるため、期間中は常に細心の注意を払ってメンテナンスが行われている(下)。