ローマのうだるような蒸し暑さの中、家にこもってパソコンに向かうのもそろそろ限界か、と思っていた時、友達から「一緒に『ジャルディーノ・ディ・ニンファ(ニンファの庭園)』を見学しに行かない?」というお誘いがかかった。ニンファの庭園はかれこれ10年以上前に一度訪れたことがあるが、その幻想的な美しさは今でも脳裏に焼き付いている。願ってもないお誘いにいそいそと乗っかり、晩夏の朝のひとときを美しい庭園散策で過ごすことにした。ローマから車でたった1時間ほどの距離にありながら、世の中の混乱をよそにそこだけひっそりと幻想の世界を作り上げている奇跡のような庭園をご紹介しよう。

 

中世の廃墟の村を再利用した美しい庭園

   ローマ近郊の街チステルナ・ディ・ラティーナ領内にある「ニンファの庭園」はラツィオ州の自然記念物に指定されているため、園内の自然環境は厳格に保護されている。見学できる期間は毎年4月〜11月の週末だけ、完全予約制のガイドツアーとというのが恒例だった。それが今年はコロナ対策でソーシャルディスタンスを維持するためグループのガイド付きツアーがなくなり、予約した時間内であればビジターが個々に自由に見学できるようになっていた。かつてNYタイムズが「世界で最も美しくロマンティックな庭園」と絶賛した庭園には、毎年世界中から5万人以上の見学者が訪れる。2020年はコロナの影響で海外からの見学者は皆無に等しく、取りにくい予約もすんなり確保できたのは嬉しかった。

 受付を済ませて早速園内へ入る。現実と幻想、二つの世界を結んでいるような橋を渡ると、最初のポイントであるサンタ・マリア・マッジョーレ教会の遺跡の前にガイドさんが立っていた。「グループツアーを廃止しているので、ご質問は要所要所で待機しているガイドに直接どうぞ」と最初に説明があった。この日は暑くて、一日中立っていなければならないガイドさんがお気の毒ではあったが、グループで解説を聞くよりも個人的な興味について詳しく教えてもらえるこのシステムはとても便利でありがたかった。「ニンファの庭園は今年100周年」とサイトで読んだが、それは開園100周年ということですか?という私の質問に、ガイドさんは丁寧に教えてくれた。

「この庭園のプロジェクトが立ち上がり、作り始めた年が1920年。それから100年目ということです。もともと古代ローマ時代からここには村があり、『ニンファ(妖精)』という名はここを流れるニンファ川の源泉に建てられていた古代ローマ神殿に由来しています。中世時代にはこの村はニンファ村と呼ばれるようになり、11世紀以後は様々な貴族によって統治されてきました。13世紀には教皇の孫であるピエトロII世・カエターニがニンファと近隣地域を買収し、統治してきましたが、1381年に起こった紛争で村は破壊されてしまいます。さらにその後、マラリアが蔓延したことによって村は再建されることなくそのまま放置されてしまったのです。今、皆さんが歩いているこの庭園は、中世時代のニンファ村をそっくりそのまま残し、遺跡や道を利用して作り上げたものなんです」。言われてみるまで気づかなかったが、なるほどよく見ると教会や家の遺跡がそこかしこに残っている。中世の村人が行き来した道を歩いていることに不思議な感覚を覚えた。

  







庭園の入り口にある橋。この橋の向こう側には、今の世界の混乱がまるで嘘のような幻想的な庭園が広がっている(上)。中世のニンファ村の中心であったサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂は12世紀の建築。内部のフレスコ画の一部も残っている。これらの建物は廃墟となった村に残った少数の住民たちによって遺跡として残ることができた(中上・中下)。庭園内の主要ポイントで待機しているガイドさんが見学者の様々な質問に答えてくれる(下)。