海と山に挟まれたラツィオ州の豊かな自然に抱かれたニンファの庭園の周辺には、「イタリアの最も美しい村」に認定されている村がいくつか点在している。ニンファの庭園を作ったカエターニ一族の居城が残るセルモネータは、中でも一際美しく保存状態の良い中世の村として、EU及びイタリア観光省から「イタリアの宝石」として認定された村である。かつてここを中心にラティーナ一帯を支配したカエターニ公爵家の栄華の名残を今も止める旧市街は、中世時代のまま時が止まってしまったような雰囲気に満ちている。幻想的なニンファの庭園を訪れた後は、その主人であったカエターニ一族の足跡を辿りにセルモネータまで足を伸ばすことにした。

 

 

まるごと映画のセットに使われている美しい旧市街

 レピーニ山脈の麓の小高い丘の上にあるセルモネータには、13世紀の中世の街並みがそっくりそのまま残っていて、旧市街全体が貴重な歴史遺産となっている。セルモネータの名が広く知られるようになった背景には13世紀からこの地を統治してきた貴族カエターニ家の存在があるが、実は街自体の歴史は遥かに古く、紀元前のアルカイック時代にまで遡る。古代ウォルスキ族の都市スルモが現在のセルモネータの領土内にあったと言われ、その後、サラセン人の侵略により領土を追われた古代スルモの住民達は、小高い丘の上にある現在のセルモネータに移住した。以後、カエターニ家の統治下に入るまでの間、街は自由な自治体として独立独歩の道を歩んできた。

 道や建物、街角のどこをとってもそっくりそのまま中世の面影を残す旧市街は、イタリアはもちろんハリウッドの映画やドラマのセットとして何度も使用されてきた。1909年から現在に至るまで、86本を超える映画・ドラマがここで撮影されているそうだが、旧市街を歩いていると、「なるほど。わざわざセットなど作らなくても、ここならいくらでも歴史劇ができるな」と納得させられる。こうした独特の環境が影響しているのかどうかは知らないが、セルモネータの住民達は芸術や文化に造詣が深い人が多く、街を挙げての文化活動も盛んに行われている。「芸術の街」というスローガンを掲げているセルモネータでは、この時空を超越した美しい旧市街を舞台に毎年さまざまなアート&文化イベントが開催されているが、中でも毎年6・7月の2ヶ月間に渡って開催される「Campus Internazionale di Musica e Festivdi Musica(音楽の国際キャンパスと音楽フェスティヴァル)」は世界的にも名高い音楽の祭典である。この季節になると、細い石畳が入り組んだ旧市街のあちこちで、世界中から集まった若い音楽家達が即興演奏に興じる姿が見られ、城壁内は音楽と熱気で満たされるという。一方、コロナ禍にもかかわらずローンチとなった「タイム・フェスティヴァル」も興味深いイベントだ。9月19日から10月10日まで開催されているイタリア初の『時間に捧げられた祭典』では、私達の過去、現在、未来を再認識しながら、言葉、イメージ、身体と動きを通して考えを構築し、芸術を生み出し、時間を体験するためのさまざまな試みが繰り広げられる。長い歴史を守り、過去の教訓を重んじるだけでなく、そこから芸術の力で今と未来を築いていこうという画期的なフェスティヴァルがこのコロナ禍の年に始まったことに深い感慨を覚えた。

 







中世時代の城壁に囲まれた旧市街。ニンファの庭園とセットで日帰り観光に訪れる観光客がたくさんいる(上)。ロマンティックな窓枠一つをとっても絵になる。こんな家に住んでみたいと思わせる建物があちこちで見られる(中上)。カエターニ城へと続く石畳の坂道には、古い城門も残っている(中下)。中世時代からの建物が今も現役の住居として活用されていることに住民達の誇りを感じる(下)。