文と写真/藤井誠二 

 

4月3日[SUN]     

 夕刻に那覇着。橋本倫史さんの『水納島再訪』(2022)を書評で取り上げるために飛行機のなかで読んできた。拙宅に帰って荷物をほどき、牧志のセンベロ寿司の「米仙」ヘ。普久原朝充さんと深谷慎平さん、岡本尚文さん、森本浩平さんが三々五々集まってきて、檄旨安寿司をつまみながら一杯やる。誰かが栄町の「アルコリスタ」が再開していたというので、電話してみるとオーナーの矢島裕光さんが出た。全員で行ってみると、コロナ禍の影響で一年半休業していたという。この店18番のアラビアータをシェアして赤ワインを飲む。店を出たあと、他のメンツはラーメンが喰いたいというが、ぼくは満腹で離脱。安里駅前の二四時間営業のスーパー「りうぼう」で食材を買い込んで一足先に帰る。

  数日前から話題になっている記事がある。琉球新報の三年にわたたって連載して買い下ろしも加えて、同社から『沖縄ひとモノガタリ』という共作を出した写真家のジャン松元さんが米兵に銃を水平に向けられた様子を撮影した写真をめぐる騒動。記事が出ると、ネトウヨ連中がわいてきてネットでは罵詈雑言を書いている。ジャンさんを擁護する人も罵っている。ツイッターはとくに匿名でしかものが言えない卑怯者が跋扈する空間である。

  琉球新報の見出しは「米兵が本紙記者に銃口 那覇軍港警備訓練の取材中に」(2022年4月1日 デジタル版)引用してみたい。

[在沖米陸軍は31日夕、米軍那覇港湾施設(那覇軍港)で基地警備訓練を実施した。銃を携帯し武装した兵士が軍港内の倉庫を警戒する様子などが、国道331号沿いから確認された。基地フェンスの外で写真を撮影していた琉球新報のカメラマンに対し、兵士の1人が銃口を向ける場面があった。]

  記事によれば、「米兵は銃を構えて数秒間静止していた」という記者が撮影時の様子を語ってもいる。

[米軍は沖縄防衛局を通じて県に訓練実施を事前に通告していたが、武装するという情報は伝えられていなかった。琉球新報の目視で、軍港内の倉庫前に米軍警察の車両や輸送車両が集まり、小銃を構えた兵士約20人が警戒しながら倉庫内に入ると、車両が続く様子が確認できた。県によると、小型輸送艦艇も接岸した。県によると、那覇軍港の第835米陸軍輸送大隊を中心に訓練を実施した。米軍は日常的な訓練だと説明している。県は訓練確認のため、現場に職員を派遣した。那覇軍港では2月にも、普天間飛行場所属のMV22オスプレイの飛来を伴う訓練が実施され、武装した兵士が、デモ隊に見立てた一団から建物を警備する様子が確認された。]

 

4月4日[MON]     

 

 昼まで寝ていて、自炊を繰り返して腹を満たし、自宅にこもって読書をする。上間陽子さんと信田さよ子さんの往復書簡『言葉を失ったあとに』(2021)をご恵送いただいていたので、関心があるテーマだし、お二人とも面識があるので、じっくり心して読む。アポ取りをいくつか。編集者とのやりとり等をしばらく続ける。

  そういえばこの記事も気になる。ようやく「あの本」をファクトチェックの視点で批判した記事が沖縄タイムスに出た。「貧困本、前提事実に「誤り」 真偽と推測ない交ぜ」(沖縄タイムスプラス・2022年3月31日)という見出しで編集委員の阿部岳記者の仕事である。ぼくもかねてから、その本についてフェイスブックで樋口さんをタグ付けして批判していたが、ぼくが小物だからだろう、音沙汰手はなく、無視されてしまった。タイムスの記事を紹介したい。(後日、紙版にも掲載された)

[沖縄から貧困がなくならない本当の理由」(光文社新書)が発売から2年近くたっても売れ続けている。著者は沖縄大学准教授の樋口耕太郎氏で、貧困の原因を「自尊心の低さ」に求める内容。立論の前提となるデータを本紙がファクトチェックすると、「誤り」や「不正確」な記述が複数あった。「根拠不明」な推測もあり、真偽がない交ぜになっている。]

[同書は、沖縄の問題点を繰り返し列挙する。例えばこんな記述がある。「沖縄社会における、自殺率、重犯罪、DV、幼児虐待、いじめ、依存症、飲酒、不登校、教員の鬱の問題は、全国でも他の地域を圧倒している。
 しかし、脚注をたどってデータを検証すると重犯罪、幼児虐待、いじめへの言及は「誤り」。DVは「不正確」、依存症、飲酒は「根拠不明」だった。この一文で指摘する9点のうち6点に何らかの問題がある。
 重犯罪は凶悪犯罪のデータで、沖縄の認知件数は人口比で全国18位(*1)。全く「他の地域を圧倒」していない。
 幼児虐待といじめの根拠として示した新聞記事は沖縄で増えていることを伝えているだけで、全国比には触れていない。同書刊行時点の国の統計を調べると、児童虐待は人口比で全国33位(*2)、いじめは全国11位(*3)で、「圧倒」は誤りと言える。
 「不正確」な記述のうちDVはさまざまな指標があるが、脚注で挙げた県資料では保護命令件数が人口比1~8位で推移する一方、相談件数は全国平均を下回る年もある(*4)。依存症、飲酒は肝疾患の死亡率が高い(*5)というだけで、他の統計的根拠は不明だ。
 樋口氏自身が「かなり乱暴な私の感覚」と断っているデータもある。県が県民総所得のうち基地関連収入を5%と見積もっているのに対し、樋口氏は25%との見立てを披露。さらに「ひょっとしたら50%に近いのかもしれない」と自説を展開している。]

 記事は、公的データを使って、樋口氏の「恣意的使用」を指摘していく。

「*1 同書が引用する「2012年凶悪犯罪認知数」(100の指標からみた沖縄県のすがた2016年10月版)を、本紙が都道府県別の人口比で分析

https://www.pref.okinawa.jp/toukeika/100/2016/100(2016).html

*2 同書刊行時点で最新の厚生労働省「2018年度児童相談所における児童虐待相談の対応件数」を、本紙が都道府県別の人口比で分析

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450046&tstat=000001034573&cycle=8&tclass1=000001136626&tclass2=000001136634&stat_infid=000031907871&tclass3val=0

*3 文部科学省「2018年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/10/25/1412082-30.pdf

*4 沖縄県「県内におけるDVの現状」

https://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/heiwadanjo/danjo/documents/siryou1.pdf

*5 厚生労働省「2015年主な死因、性、都道府県別年齢調整死亡率(人口10万対)・順位」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/other/15sibou/dl/10.pdf(中略)]、そして、やはりというべきか、[本紙は著者の樋口耕太郎氏にインタビューを依頼したが、樋口氏は辞退した。]

 という。

  そして、糸数温子(日本学術振興会特別研究員/沖縄SN協議会共同代表)のコメントを付記している。

[『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』はツイートのような本だと感じている。学術書のような論拠や先行研究への目配りはなく、かといってエッセーのような思想の統一性もなく、即時的に、思いついたままをつぶやいている印象。

 本書は『愛』を説くのだが、その視線はパターナリズム(父権的温情主義)に貫かれている。日本より劣位にある沖縄を、劣位にあるからこそ愛し、矯正してあげる、という姿勢だ。「沖縄の社会構造が貧困を生み出していると同時に、沖縄経済が貧困によって維持されている」「貧困の対症療法ではなく根本原因の特定に労力を費やすべきだ」という主張には同意する。根本原因は、産業構造の変化、社会的排除、階層の固定化などさまざまな角度から論じることができる。税の再配分を求める政策提言やユニバーサルな支援を求める声、そして多様な実践が存在する。しかし本書は、挑発的なタイトルに反して、その社会構造や根本原因を追求した記述が浅いために、本書を読んだ人びとからの批判を免れないのである。(後略)〕

  糸数温子さんとは仕事をしたことがあるが、明晰で切れ味鋭い人である。ぼくはちなみに、二〇二〇年八月の本連載で以下のように批判していた。

〔最近なにかと話題の樋口耕太郎さんの『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』を読んでみて、かなりの違和感が残った。何年か前に氏にはインタビューしたことがあって、当時は、那覇軍港の移転について反対していた浦添市長のあっと言う間の「転向」について構造的な鋭い分析等をしていて、すごいなあと思って話を聞かせてもらいにいった。物腰のやわらかい人だった。が、今回の本については経営者としての記述に刮目するところも多々あるのだが、本書に寄せられている批判に対して「まとめて」樋口さんが反論しているのを見て、がっかりしてしまった。反論というより、ぼくには言い訳のように読めてしまった。

「反論」の中で、[「この本は〇〇の本だ」、と語ることが難しければ、まずは、そうでないものを説明する]、[この本のジャンルを特定することは難しい。沖縄地域研究、経済、貧困問題、文化、心理学、幸福論、哲学、スピリチュアリティ、経営、マーケティング、未来学、教育、子育て、自己啓発、社会学、日本研究、エッセイ、ノンフィクション、物語……どれも該当しそうだが、どのカテゴリーでもないとも言える](「ニューズウィーク」2020.8.3)というくだりにはとくに脱力してしまった。

『沖縄から~』で、沖縄の貧困問題に対する既存の対策を対処療法だと断じた一方で、肝心の政策提言らしきものがなく、問題の本質を沖縄の個々人の心の有り様に求めてしまっているのに、だ。樋口さんに悪意はないのだろうし、沖縄でもよく売れているのだから、賛否両論があることは一般的にいいことだと思う。ぼくもいろいろと嫌われているので「嫌われる勇気」的な気持ちはいつも持っているつもりだけど、「自己肯定感が低い」という物言いを個人以外に対して使うことは、ぼくには憚られる。〕

 沖縄タイムスの記事は沖縄タイムス社とYahoo!ニュースによる共同連携企画で、沖縄タイムス社がNPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインを参照してファクトチェックをしているというが、樋口さんが同本のもとになる連載をしていたのはほかならぬ「沖縄タイムス」である。考え方の異なる署名記事を掲載するのは公器たる新聞の役割だが、「ファクトチェック」の対象となると意味合いが違ってくる。それにしてもこの本が沖縄を含め四万五千部も出ている事実もある。沖縄でもおそらく二万部以上は売れたし、樋口さんに賛同している知人も何人もいる。樋口さん、社会に何がしか発信をしている「言論人」なのだから、阿部記者の取材は受けるべきと思う。反論すべきところは反論し、訂正する箇所があるなら対応したほうがいい。樋口さんに悪意はないことはわかっているのだから、いまのままだと単に「逃げている」だけで印象が悪いと思う。

 

4月5日[TUE]      

 早めに起床して雑務を片づける。ツイッターで知花園子さんが「一か月以上外で酒を飲んでない」と投稿しているのをたまたま見つけ、すぐに久々に飲みに行く約束をした。はやめに出て、歩いて「桜坂劇場」に行ってドキャメンタリー映画「牛久」を観る。トーマス・アッシュ監督が牛久にある「東日本入国管理センター」の面会室等を隠し撮りした衝撃の映像の連続。「不法滞在」の外国人は人間として扱わなくてよいという、日本という国の排外的な本質の一端を見せつけられる。だが、隠し撮りを知らされていなかったと主張する収容者もいて、監督とモメている情報も聞いた。難しい。

 映画を観たあと一階のさんご座キッチンで本を読み、「ガーブドミンゴ」と「陶・よかりよ」「古・民芸陶楽」、「ひばり屋」に顔を出してゆんたく。周辺のを撮りながらぶらぶら歩いて、いつもの激旨センべロ寿司「米仙」で知花園子さんと合流、久々に彼女と酒を飲む。アラレちゃんのようなかっこうをしたど派手な知花さんは、何か言うたびにいちいち「藤井さん!あのですね!」と前振りをするしゃべり方の癖があるので、米仙の大将が笑っている。知花さんがはたらいている「町中華」ならぬ「町ケーキ屋」が建て替えによる立ち退きをしなければならない事態になっており、移転・再建には資金がいるから、その資金を集めるために知花さんはSNSなどでカンパを呼びかけていることは知っていた。聞けば、それなりの資金は集まっているらしいが、まだまだ足らないし、移転先も見つからないらしい。廃業にさせないために知花さんの孤軍奮闘ぶりには、あたまが下がる。「米仙」のあとは数十メートル先の「浮島ブルーイング」で定番のクラフトビール。知花さんは米仙で純米酒を飲みすぎて、トイレに行ったかと思ったら帰ってこないので探しに行ったら、店内のソファで寝入っていた。

 

映画「牛久」公式サイト https://www.ushikufilm.com/

 

4月6日[WED] 

 すがすがしい天気。昼前に起きて、パスタを自炊して食べ、あちこちにアポどり。シャワーを浴びて、市役所でジャン松元さんと合流。ある企画で市会議員にインタビュー。インタビューと撮影が終わったあとに、ジャンさんと少し話し込む。別れた後、議員さんがFM那覇でパーソナリティをつとめる番組に出演させてもらい、琉球新報社から出したばかりの『沖縄ひとモノガタリ』についていろいろしゃべる。沖映通りを歩いていると、信号の向こう側から三人の親御連れから声をかけられた。そのときは遠目で誰かわからなかったが、あとで共通の知り合いからその親子連れが誰だったからを聞いた。いつかどこかで飲んだ御夫婦で、夫は米軍勤務の人だった。帰りに一人でとんこつラーメン「一幸舎」へ歩いて行ってバリカタのをすする。帰還して寝ころんでいたら寝落ち。夜中に目が覚めて、歯を磨いてから再び眠る。

 


『沖縄ひとモノガタリ』
「琉球新報」2019年1月~2021年12月まで連載された人物ルポルタージュ「藤井誠二の沖縄ひと物語」に10人の書き下ろしとポートフォリオ写真を新たに追加し書籍化。
人々が紡ぐモノガタリは潮風が吹き、緑がそよぎ、唄も聞こえてくる。 なにやらこの人たちに会うためにページをめくっている気分になる。

ご購入はコチラから→琉球新報ストア

 

4月7日 [THU]  

 レトルトカレーと冷凍野菜を食べて、昼過ぎまで仕事して、午後から牧志の「ククル」へ。「ククル」は引きこもりなどの青年を支援するNPO。もろもろ打ち合わせをして、深谷慎平さんと上原岳文さんといつものセンベロ寿司「米仙」へ。飲んでいたらNHKの渡辺考ディレクターがクルーを伴ってやってきた。隣のテーブルに陣取ってわいわいやる。渡辺さんたちは先に帰り、ぼくらも解散。深谷・上原コンビはもう一軒どこかへ行ったようだが、ぼくはコンビニで買い物をして帰還。そういえば、カウンターで一人で飲んでいた男性客が、帰り際に「フジイさんですか。いつも日記、読んでますよ」と言って名刺をくれた。大手生協チェーンの人だった。

 

4月8日 [FRI]  

 早起きして資料を読む。昼過ぎに若狭でジャン松元さんと合流して、ある人を取材。そのあと、玉城デニー知事私邸に移動して、7月に出す「玉城デニー」の青春ノンフィクションの表紙を撮影。

 斉藤鉄夫国土交通相による裁決で、辺野古新基地の設計変更申請を不承認とした県の処分が取り消された。20日までに設計変更を承認するよう求める国交相は勧告をしているが、そもそも「味方同士」で裁決云々なんてシステムそのものがおかしい。