ステファン・ダントン 
 

 

 

 ほっと一息つくときに、手元にあってほしいもの。

 私の場合は、コーヒーかビール、そしてタバコ。

 日本茶ワインは、もちろん大好きだけど、まちをぶらついたり、本を読んだりしてくたびれたときには、絶対にコーヒーかビール、そしてタバコ。私が数十年来の愛煙家だということを、親しい人はみんな知っている。

 「ソムリエや茶商の仕事に影響はないの?」と心配してくださる方にはこう言いたい。

 「私の味覚や嗅覚は、タバコとともにあっても少しも揺らがない」

 

タバコを買いたくて

 数十年来、一貫して同じ銘柄を吸い続けている。

 私がこだわるブランドのタバコは、どこにでも置いてあるわけではないから、鞄には必ず2、3パック入れておくのだが、この日に限って切らしていた。

 

 普段立ち寄らない場所であのタバコを探すのは至難の技かと思われたそのとき、古めかしい漢方薬局の店内に外国のタバコが並んでいるのが目に入った。私の嗅覚はこんな場面でも発揮される。「ここなら必ずある!」そう確信した私は店内に。友人たちもつられて入ってくる。

 

 店内には漢方薬剤の独特の香りが広がる。昔懐かしい掲示には知らない漢方薬剤の名前が連なり、奥には実験室のような調剤コーナーも見える。その店の入り口には、かなりのバリエーションのタバコが。目的の銘柄もあった。早速購入しようと3つ手に取ったところで、奥から上品なムードをまとった高齢の女性が出てきてくれた。

 

 450円のタバコ4つと100円のライター1つ。5千円札を渡したら、出してくれたお釣りが多いことに気づいた。

 「3850円もあるよ。おつりは3100円でいいんだよ」とお金を返そうとしてもなんだか納得できないような顔。紙とペンをお借りして、計算結果をお見せしながら、ああでもないこうでもないと話した末、ようやく750円を受け取ってくれた。

 「こんなやりとりがいいんだよな」

 世の中は便利になっていて、自動販売機やコンビニなら1分とかからずに同じものが手に入る。現金を出さなくてもカードやスマホ決済で買い物ができる。でも、「あの店で、あの人から、これを買った」という実感は薄くなった気がする。この店でのやりとりに、きっと10分以上を費やした。でも、この買い物は「経験」になる。思い出になる。

 日本に観光に来た友人たちは「いろんな場所にも行って、いろんな経験にチャレンジしたけど、あまり人と出会わなかったな。もちろんみんな礼儀正しく親切だけど、ナチュラルな感じのふれあいができなかったのが残念だ」という。この店での買い物は、一人の外国人としても、とてもエキサイティングだった。このニュアンスがわかってもらえるだろうか…。

 

 そういえば、今は少なくなったけど、以前はタバコを扱う薬局も多かったよな…。喫茶店といえばコーヒーとタバコ、という風景も過去のものになってしまうのか。どこかにオアシスはないものか。私たちは喫煙可の店を探して歩き始めた。

漢方薬局のカウンターにて。薬ではなくタバコを購入
お釣りの計算をしているところ