ステファン・ダントン 

 

 

 中野区の小さなアパートに住んで留学生時代を過ごした1986年。あの頃から地下鉄に乗ってよく訪れていた場所がある。神楽坂だ。

 インターネットのなかった当時、母国フランスの情報を得る方法は少なかった。フランスの新聞や本を読みたくなると、飯田橋からも神楽坂からも近いアンスティチュ・フランセ東京(旧・日仏学院)にある小さな本屋へ行ったものだ。

 日仏学院やインターナショナルスクールがあったからなのか、昔からあの辺りにはフランス人が多く、フランス料理店も多かった。

 

 あれから30年あまりが経った2019年、ちょっと昔を振り返りながら「東京の中のパリ」とも呼ばれる神楽坂を散歩しようと、真夏の日差しの8月のある日、友人と一緒にまずは旧・日仏学院へと向かった。

 

真夏の外堀通りで思うこと

   降り立ったのは地下鉄東西線の飯田橋駅。強い日差しに照りつけられながら外堀通りへ。

 「お堀はあるけど、水が流れていないから、ちっとも涼しさを運んでくれないね。昔はどうだったんだろうね?」

 「目の前にあるカナルカフェのテラスは風が通って気持ちがいいんじゃない?」

 という友人たちの言葉で思い出した。

 「日仏学院の本屋で買った本をカナルカフェで読むのが楽しみだったんだよ。水があって緑があって目の前を電車が通る。そこでフランス語の本を読んでいると日常を忘れられたんだ。ちょっと寄ってみようか」

 ところがこの日はあいにくのお休み。

 「カナルカフェは大正時代にできたボートクラブから始まったんだ。欧米人のような体を作るにはスポーツやレクリエーションが大事だと考えた当時のオーナーが作ったんだよ。知ってた?」と豆知識を披露したけど中へは入れない。

 「外堀はパリでいえばセーヌだよ。内側にはお城や役所なんかがある保守体制の象徴。外側には学校や出版社なんかの新しいアイディアを交換する場所がある」

 私は、本の町で有名な神保町を含め、この辺りを東京のカルチェラタンだと思っている。

 「私にとっての東京のカルチェラタンの象徴の一つ、日仏学院に向かおう」

飯田橋駅を出ると真夏の日差し

カナルカフェの閉じた門の前で

この下のテラスで電車を眺めながら本を読むのが楽しみだった

外堀通りを歩く。暑くても私は日陰を歩かない