文と写真・サラーム海上

 

 

ミステリーバスツアー

 ブハラ・ユダヤ料理を満喫した翌朝の9月11日月曜午前9時前、僕はテルアビブのダン&ヤルデン夫婦に別れを告げ、一人エルサレムへ向かった。今日からフェスティバル『メクデシェット(Mekudeshet)』の取材が始まるのだ。

 タクシーと乗り合いタクシーの「シェルート」を乗り継ぎ、午前11時にはエルサレムの滞在先である『Mount Zion Hotel』にチェックイン。ここは旧市街の西側にあるダビデ門から南に徒歩15分ほどの丘の斜面に建つ高級ホテルで、ロビーの窓からは旧市街やシオンの山、その向こうにヨルダン川西岸地区までが見渡せる。

 

エルサレム新市街の裏通りで見かけた小さなシナゴーグの入口

見渡しの良い斜面に建つ高級ホテル、マウント・ザイオン・ホテル

マウント・ザイオン・ホテルのロビーのアーチ窓から、東にシオンの山、その向こうにヨルダン川西岸地区

 待ち合わせ時間にロビーに降りると、フェスを主催するNGO団体「Jerusalem Season of Culture」で働く友人キムがアムステルダムから来た2人の僕の同業者、音楽評論家のバスティアンとチャーリーとともに待っていてくれた。彼女には5年前にエルサレムのグルメ案内をしてもらって以来の付き合いだ。

「実際に会うのは三年ぶり? でも、貴方は少し前にもイスラエルに来ていたでしょう?」
「この国の音楽と料理をすっかり好きになってしまったからね」

 午後はホテルから近い彼らのオフィスでゆっくりとランチを取りながら、総合プロデューサーのノオミからブリーフィングを受けた。

「エルサレムは約五千年の歴史を持ち、キリスト教徒、イスラーム教徒、ユダヤ教徒にとって神聖とされ、常に世界中の目が集まってきた町です。メクデシェットは多層的な歴史と構造を持つ、常に驚きに満ちたエルサレムという町を、音楽やアートを通じて再発見するフェスティバルです。今年が第7回になります。当初は英語の『Jerusalem Sacred Music Festival』として始まりましたが、一昨年にヘブライ語の『メクデシェット』と改名しました。メクデシェットとはユダヤ教の結婚式にて三回繰り返し口にする言葉で、英語の“Sacred”にあたり、“聖なるものにつながっている”という意味です。それは宗教体験だけに限りません。アートや音楽や文化もメクデシェットです。意識を開き、境界や範囲を融解すること、現実の境界だけでなく、精神の境界を溶かすこと。そうして自分自身を問い直すこと、日常の快適な場所から一歩外に踏み出すこと。それこそがメクデシェットなんです」

 

 続いてアーティスティック・ディレクターのニタイの言葉。

「なぜエルサレムかって? この町は長い間、憎しみと分離、宗教、伝統、紛争、恐怖、そして共存、そうした人間性の諸問題と付き合ってきた。この町は世界のミクロコスモスであり、世界の青写真だ。
 現在のエルサレムには様々な人々が暮らしている。東エルサレムにはパレスチナ人が住んでいる。彼らは50年間(1967年にイスラエルがヨルダンから併合した)もエルサレム市民になれず、単なる滞在者として存在している。そして西エルサレムの一角にはユダヤ教の超正統派も暮らす。彼らは一家に7~8人も子供を作り、テレビもインターネットも見ずに信仰生活をしている。そして、残りが僕達のような世俗派のユダヤ人だ。こうした人々が同じ町で一緒に働き、暮らしている。
 さらに驚くことに世界中の人々、この町を全く訪れたことない人々までがエルサレムに対してそれぞれ強い考えを持っている。世界の他の町でこれほど人々の思いやエネルギーが集まる町はあるだろうか?
 さて明日からの音楽プログラムの前に、今日はこれから君たちには『Dessolving the Boundaries(境界を融解する)』というプログラムの一つに参加してもらう。行き先も会う人も知らされず、市内様々な場所をバスと徒歩で訪れ、それぞれの地区に暮らす、異なるコミュニティーを代表する5人のエルサレム住民に出会う、マジカルミステリーツアー的なバスツアーなんだ。5時間のプログラムを通じて、君たちはエルサレムという言葉で思い浮かべる先入観、イメージをいったん破壊して再構築することになるだろう」

 

メクデシェットのアーティスティック・ディレクターのニタイ