音楽プログラムに酔いしれる

 9月中旬、エルサレムの午後はまだまだ暑い。この日は気温が34度まで上がった。その反面、湿度はたったの28%なので、日陰や室内にいれば過ごしやすい。午後はホテルに戻り、冷房が効いた場所でインタビューやミーティングをこなし、夕方からついに本番、音楽プログラムのスタートだ。

 午後6時、ダビデの塔の黄土色の花崗岩が夕暮れの色に染まる頃、野外ステージに登場したのはTrilok Gurtu & The Castle in Time Orchestra。インドを代表するベテランのタブラ奏者/フュージョン・ドラマーのトリロク・グルトゥと、地元の実験系オーケストラ、ザ・キャッスル・イン・タイム・オーケストラとの共演だ。彼らは通常の西洋クラシックの管弦楽隊のほか、DJや電子機材担当、エレキギターやドラムス、女性ヴォーカリストまで含む約40名の大所帯オーケストラで、若いリーダーで指揮者のマタン・ダスカルはモダンダンスの名手としても知られている。

 トリロクが手拍子や口タブラ、ドラムスやパーカッションをフル動員してインド古典音楽直系のリズムを打ち鳴らすと、トランペットや女性ヴォーカリストなど、オーケストラのメンバーが即興的に一人ずつ音を足していき、次第に大きな音のうねりが生まれていく。

 常に客席に背中を向けている指揮者のマタンだが、タクトを振りながらも身体を大きく揺らしブレイクダンスを踊り始めた。最初は実験的すぎるように思えたが、現代音楽とインド古典音楽、そしてジャズやファンクを行き来するうち、後半に行くに従い双方の息が合ってきて、クライマックスの高揚感はまさにこのフェスのテーマ「メクデシェット=セイクレッド=快適な日常を離れ、聖なるものにつながる」そのものとなった。

 

Trilok Gurtu & The Castle in Time Orchestra
1970年代からジャズやフュージョンの世界で活躍するインド人ドラマー/パーカッショニストのトリロク・グルトゥ
トリロクはいったんステージに上がるとまるで別人のように凛凛しく豹変した!

深夜に登場したエチオピア系サックス奏者Abate Barifun。エチオジャズ、エチオブルース、アフロビートなど

アバテ・バリフンのライヴはエチオピア正教の司祭による祈りの歌から始まった

「音楽は常にメクデシェット=セイクレッドじゃが、その前に我々全員がセイクレッドじゃ!」

 その日の午後に行ったインタビューで、トリロクは「メクデシェット」というアイディアについてこう語ってくれた。インタビュー時には黒縁メガネをかけた冴えないインド人のオッサンに見えたトリロクが、いったんステージに上がるとまるで別人のように凛凛しく変身して見えたのも驚きだった。

 

 翌13日、メクデシェット3日目。午前中に博物館観光、お昼にはホテルのプールでインタビュー一本とひと泳ぎした。そして、夕方からはダビデの塔の室内で、日本でもおなじみの旅する映像作家ヴィンセント・ムーンの上映会とレクチャーを聞いた。

「ダビデの塔」にてフランスの映像作家Vincent Moonのレクチャー。

 「五年前にカイロで女性だけの秘密の儀式に案内された。女性たちが次々にトランスに入っていくんだ。ぶっ飛んだよ。以来、儀式を追いかけて撮影してきたんだ」

 

 夜から音楽プログラムがスタート。道に迷いながらも7時前に旧市街のアルメニア人地区に建つ小さな会場、ダビデのハープ(The Harp of David)に到着。そこで何も前知識がないままに観たイスラエルの女性シンガーソングライターのリオール・ショーヴ(Lior Shoov)が掘り出し物だった。彼女は会場の後ろから、自分の両肩や両腿やお腹や胸や頭、ほっぺたを両手で叩いて、リズムを刻み、そのリズムに合わせて歌いながら歩いて登場した。

 次の曲ではウクレレを弾きながら英語で歌い、さらにアコーディオンを抱えてフランス語、続いてはおもちゃのキーボードでヘブライ語で歌うなど、一曲ごとに違う楽器、違うおもちゃ、違う言語で歌っていくのだ。親指ピアノやハングなど珍しい楽器も器用に弾き分けて、途中で鳴り始めた近くのアルメニア正教会の鐘や観客の歓声まで曲の一部として取り込んでいく。ちょうど前月に東京で観たカナダの女性シンガーソングライター、クロ・ペルガグに似た特異な個性だった。

 

ダビデのハープで観たリオール・ショーヴ