夜8時半にメイン会場のダビデの塔に戻ると、今回最も注目していた二人組、Avital meets Avitalがリハーサルを行っていた。日本でも人気のバロック音楽のマンドリン奏者アヴィ・アヴィタルと、ジャズのベーシスト、オメル・アヴィタルの二人による新たなユニットだ。

 リハーサルの段階から演奏が全力で熱いのに驚いた。ジャズ、バロック、クラシック、モロッコ音楽、アラブ・アンダルシア音楽、中東音楽が二人のマンドリンとコントラバス、更にバックのピアノとパーカッションの超絶演奏を通じて浮かび上がる。二人がお互いの目で会話しながら演奏しているのがありありと伝わってくるのだ!

 ほどなくして始まった本番では、二人の一挙一動から目が、そしてそこから生まれる音から耳が離せなくなった。普段はクラシックとジャズの世界で活躍する二人だけに、マニアックな音楽性に偏らず、誰にでも聞きやすいイージーリスニングになっているのもスゴい。これはトルコのロマ演奏家最高峰の三人組、Taksim Trioと並んで、僕の知る限り現代の中東音楽生演奏の最高峰じゃないか! こういうのが観たかったんだよ!

 



バロック音楽のマンドリン奏者アヴィ・アヴィタルと、ジャズのベーシスト、オメル・アヴィタルの新ユニット、Avital meets Avital
オメル・アヴィタルはコントラバスを自分の身体の一部のように操り、楽しそうにスウィング!

 僕はその日の午後のうちにアヴィ・アヴィタルにインタビューを行っていた。

 「僕の両親はモロッコからの移民。オメルと僕は同じアヴィタルという苗字だけど、親戚ではないんだ。この苗字は1950年代にモロッコからイスラエルに移住してきた人たちが、それまでのアラビア語の名字をヘブライ語に改名した時に付けられたんだ。古いアラブの文化を捨てて、新しくイスラエルの文化と同化するために改名する必要があったんだ。
 元々は『ブートゥブール』という苗字で、それは『太鼓を叩く人』という意味だそうでし。だから僕もオメルも先祖代々音楽家の家系ということではつながっています。僕はクラシック音楽、オメルはジャズと、音楽ジャンルは異なるけれど、ともに生楽器の演奏家ということでもつながりがあります。
 このプロジェクトは5年前にドイツのコンサートホールから、何か新しいことをやってくれと頼まれたことから始まりました。そこでベテランのオメルを誘ったんです。そして、まず二人で中東音楽、モロッコ音楽について深く掘り下げました。オリジナルの曲も作ったし、古いイスラエルの歌もとりあげました。それまで僕はモロッコ音楽とはあまり強いつながりは感じたことがなかった。でも、このプロジェクトを通じて、メロディーやスケール、リズムが自分のDNAに存在していたことに気づきました。
 その後、お互いに忙しくて再開出来ずにいたけれど、昨年に4年ぶりに集まって、一気にアルバムを作りました。それを(クラシックの名門)ドイツ・グラモフォンから出せてうれしいです。
 オメルは既にモロッコを訪れているけれど、僕はまだモロッコを訪れたことはないんです。だからこの音楽は本物のモロッコ音楽ではなく、僕たち二人による『空想のモロッコ音楽』です。それは僕が子供の頃、家族を通して体験した個人的な思い出、例えばコミュニティーの結婚式などが元になっているんです」

 

「僕たちの音楽は空想のモロッコ音楽なんです」とアヴィ・アヴィタル

 「空想のモロッコ音楽!」1950年代初頭、モロッコやイエメン、イラクなどアラブ諸国に暮らしていたユダヤ教徒は、イスラエルとアラブ連合による第一次中東戦争が起きたことにより、それまで何世紀もの間、隣り合って暮らしていたイスラーム教徒によって迫害され、その多くは国を追われ、新天地イスラエルへと流れ着いた。

 そうしたモロッコ系イスラエル人の第二、第三世代の音楽家たちが、モロッコの音楽家よりも自由な発想で音楽を先へ先へと進めているのだ。彼ら二人の音楽もまた「メクデシェット=セイクレッド=快適な日常を離れ、聖なるものにつながる」だった。

 さて、明日はメクデシェットのハイライトと言えるオールナイトの音楽プログラム「ナイト・ストロール」だ。果たしてどんな音楽が待っているのだろうか?

 

【旅とメイハネと音楽と #42】(2018.4.3)