文/下川裕治 写真・動画/中田浩資

 

■新しい沖縄旅へ

 沖縄に向かう……久々の感覚だった。

 新型コロナウイルスの感染を防ぐ行動制限がようやくなくなった。

 羽田空港に向かいながら、かつてかなり重い沖縄病に罹っていたときを思い出した。あの優越感と一緒に。

 かつては、平日の夕方、仕事を早めに切りあげて沖縄に向かうことが多かった。浜松町でモノレールに乗り換える。オフィスビルの窓はどこも明るく、ときになかで仕事をしている人が見える。

 「悪いなぁ。僕はこれから沖縄なの。皆さん、仕事、頑張ってください」

 そんな意地の悪い文句が浮かんでくる。僕は沖縄に行くことで浮足立っていた。1ヵ月前にも沖縄に行っているというのに。

 当時はLCCもなく、なんとか安い航空券を探すのだが、東京那覇の片道は2万円近くした。往復で4万円。それは痛い出費だったが、あまり気にもしなかった。収入が多くあったという意味ではない。沖縄という言葉の前で、どこか違った金銭感覚に陥ってしまっていた。

 「沖縄だからしかたない」

 沖縄病患者特有の自己肯定だった。

 

 飛行機は2時間半ほどで那覇に着く。ターミナルを出ると、暑くて甘い沖縄の風が頬をなでる。甘さのなかには磯の香も含まれている。風は翡翠色の沖縄の海につながっていた。

 空港に着いてからも気がせいた。那覇に暮らす知人たちが居酒屋で待っているはずだった。いまのようにゆいレールもなかったから、バスで市街に出、宿に荷物をおいて居酒屋に急ぐ。

 居酒屋がとこかに行ってしまうわけでもなく、知人たちが早めに切りあげて帰宅してしまうわけでもなかった。それなのに焦るのだ。気がつくと、小走りになっていることすらあった。

 居酒屋の飲み会がとりたて楽しいわけでもなかった。仕事の話になることも多かった。1ヵ月前にも同じメンバーで同じテーブルを囲んでいるのだ。

 それなのに気がせく。

 あの頃、僕は沖縄になにを求めていたのだろうか。

 当時の思いを懐かしむように、今回、飛行機に乗り込んだ。羽田空港を飛び立った飛行機は南西方向に向かってまっすぐ進んでいく。それから2時間。飛行機はしだいに高度をさげていく。やがて沖縄の海が視界に入ってくる。