夕食ではなく、「食前酒を楽しもう」という目的で早めの時間帯に集まったのだが、久しぶりの再会とあっておしゃべりのネタは尽きず、気がつけば夜11時近くになっていた。それでも別れが名残惜しく、帰路に着く前のひと時をみんなで一緒にぶらぶら散歩しようということになった。

 イタリアへ来たばかりの頃、イタリア人の友達ができるとよく、「夜一緒に出かけよう」と誘われた。最初はイタリア語がよくわからず、友達と広場で集合したら、後はただ目的もなく街をぶらぶら歩き回るだけの彼らの行動が不思議でならなかったのだが、回を重ねるごとにだんだん面白くなってきた。言葉が理解できるようになってくると、この「夜のぶらぶら歩き」は日常生活の中でダントツに楽しみなイベントになった。ふらっと歩いている道の途中に突然コロッセオの勇姿が現れたり、おしゃべりに夢中になっている間、ふと視線を流すとライトアップされた大理石の噴水の光景が目に飛び込んできたり。どんなに見慣れても、その一瞬はやはり「ハッ」とさせられるほど美しいと思ってしまう。友達と大笑いしながら、あるいは歴史や文学、アートの話で盛り上がりながら、気がつけば2時間も3時間も歩いていた、ということも日常茶飯事。しかも1セントも使わずに夜のひと時を楽しめてしまうのだから、ハマらないはずがない。

 ローマ人が大好きなこの定番イベント「夜のぶらぶら歩き」も、この2年間はできなかったことの一つだ。レストランを出て路地を歩き始めると、あちこちから同じように再会を喜ぶ人たちの歓声が聞こえてきた。歩き慣れたトラステヴェレの迷路の小道を、仲間と連れ立って歩く。たったそれだけのことなのに、それすらできなかったこの2年間の暮らしに改めて思いを馳せる。私たちが万全と思っていた世界がこんなにも脆く儚いものであり、当たり前だと思っていた暮らしの中の小さなことがこんなにも貴重でありがたいものだったことをコロナ禍は教えてくれた。秋にはまた新たな変異株の出現が囁かれているが、私たちは既にたくさんのことを学んできた。今日までの経験を活かしながら、コロナと共存する日常を大切に生きていこうと思った。

 

狭い通りに気取らないトラットリアやピッツェリア、パブなどがひしめき合う光景は下町トラステヴェレならでは。この地区には、中世時代の建物が今も軒を連ねている。600年〜700年前に建てられたアパートは現役で、今も人が住み続けている。

 





ローマ旧市街の中でも最も古い地区と言われるトラステヴェレには、歴史遺産も数多く残っている。ヴァチカン方面に向かう門としてアウレリア城壁に造られた最初のセッティミアーナ門は紀元前に建造された。現在の門の形は15世紀のボルジア法皇によって再建されたもの(上)。教会の背後にぽっこり開いたサンテジディオ広場(中)。星の数ほどあるローマの教会の中で最も古く、今もなお地域の住民の信仰の場として活躍しているサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ教会とその広場(下)。

つづく​